研究の背景
近年,You TubeやGyaO,BIGLOBE ストリームなどのVOD(Video on Demand)サービスが急速に普及してきており,それに伴って動画像のストリーミング通信に対する需要も高まっている.従来,ストリーミングなどのリアルタイム通信においては,トランスポート層プロトコルとしてUDPが多く用いられてきたが,UDPによる通信は企業内に存在するファイアウォールや家庭のブロードバンドルータなどによって遮断されてしまい,サービスを提供できない環境も存在する.これに対して,TCPを用いる場合にはそれらのネットワーク機器の影響を受けずに通信を行うことができるため,TCPによるストリーミング通信が注目されている.しかしながら,TCPは通信品質の面から見るとストリーミング通信に適さない.TCPはパケット廃棄を検知すると輻輳ウィンドウサイズを大きく減少させるため,一時的にストリーミング通信に必要な転送レートを確保することができずに遅延が増大し,映像が止まるなどの品質の劣化を招く.
本研究では,ストリーミング通信に必要な転送レートを確保するための方法としてForward Error Correction(FEC)技術に着目する.先に述べたように,従来のTCPはパケット廃棄を契機として輻輳ウィンドウサイズを減少させる.そこで,送受信ホストのTCP層の下部にFEC機構を設けて,受信ホストで廃棄されたパケットを復号することによって,TCPからパケット廃棄を隠蔽し転送レートの低下を防ぐことができる.この方法を用いる場合,送信ホストに加えて受信ホストにも修正を加える必要があるが,輻輳ウィンドウサイズの制御による帯域確保方式よりも高い効果を期待できる.
帯域確保のためのTCPに適したFEC冗長度動的決定手法
FEC技術による冗長化は先に述べたようにいくつかの利点が存在するが,冗長度を必要以上に大きくした場合にはネットワーク帯域の利用効率が低下するため,ネットワーク環境に応じて最適な冗長度に設定する必要がある.冗長度の動的決定手法に関してはこれまでにもUDPによるリアルタイム通信や無線通信に関する研究分野などで数多くの手法が提案されているが,それらの冗長度動的決定手法をそのままTCPに適用した場合には十分な効果が得られない.そこで,本研究では,既存手法へTCPの輻輳ウィンドウサイズに基づいて冗長度を動的に決定する手法を併用する新しい冗長度動的決定手法TCP-AFECを提案する.TCPの輻輳ウィンドウサイズに基づいて冗長度を動的に決定する手法を併用することによって,TCP-AFECはTCPにおいてもネットワーク環境に応じて最適な冗長度に自動的に設定される.
性能評価
提案した冗長度動的決定手法に関しては,コンピュータ上のシミュレーションによる性能評価を通じて,ネットワーク環境に関わらず,常に最適な冗長度に自動的に設定されることを確認している.また,輻輳ウィンドウサイズの増減を制御することによって帯域確保を目指すTCPと比較することによって,それらの方式に対するFEC技術を用いた冗長化による帯域確保TCPの優位性も明らかにしている.
関連論文
国際会議発表
- Tomoaki Tsugawa, Norihito Fujita, Takayuki Hama, Hideyuki Shimonishi, and Tutomu Murase, ``TCP-AFEC: An Adaptive FEC Code Control for End-to-End Bandwidth Guarantee,'' in Proceedings of 16th International Packet Video Workshop (PV 2007), November 2007. [PDF]
国内研究会発表
- 津川 知朗,藤田 範人, 浜 崇之, 下西 英之, 村瀬 勉, ``TCP-AFEC: TCPによる エンドホスト間の帯域確保のためのFEC冗長度動的決定手法,''電子情報通信学会 技術研究報告(IN2006-227), pp. 279-284, March 2007. [PDF]