インターネットのトラヒック特性とその応用に関する研究

インターネットユーザ数の急伸やマルチメディア化によって、インターネットプロバイダーはインフラ整備の対応に追われている。品質の高いネットワークを構築するためには、ネットワーク特性を十分に把握した上で、それに基づいたアプリケーション制御、アプリケーションシステム設計が必要になる。特に、従来のネットワーク設計手法論が単一キャリアを前提にした、閉じたものであったのに対して、インターネットにおいてはオープンな環境におけるネットワーク設計論が必要になっている。インターネットにおけるTCPのフィードバック制御に基づく輻輳制御手法、インターネットの急成長などを考慮すると、ネットワーク測定とネットワーク設計のポジティブフィードバックを前提にしたネットワーク設計論が重要になる。本研究テーマでは、このような考察に基づいて研究テーマに取り組んでいる。

インターネットにおけるネットワークディメンジョニングに関する研究

トラヒック量が急速に増大しているインターネットにおいて、ユーザに安定した品質を提供するためには、将来必要となる帯域を正確に予測し、回線容量設計を速やかに行う必要がある。ネットワークプロバイダがユーザに対して適切なサービス品質を提供するためには、現在のトラヒックの状況を正確に把握し、最適なリンク帯域を導出する必要がある。そのために現在までネットワーク特性を計測する様々なツールが開発されてきた。しかしながら、これらの計測結果を有効に利用する手法についてはあまり議論がなされていない。そこで本研究では、ネットワーク性能の設計に不可欠となる性能指標について明らかにし、その結果をもとにネットワーク性能設計を行う手法を示した。まず、ネッワークの構成を明らかにするために必要な、回線容量の計測手法について検討している。ネットワークリンクの帯域測定においては、既存のツールとしてpathcharが開発されている。しかし、pathcharを用いた帯域測定では、ネットワーク上に存在するさまざまな誤差の影響によって、正確な値を測定することが困難である。また、得られた結果に対して信頼性を与える指標は存在しない。そこで、本研究ではpathcharを用いて計測を行う際に発生しうる誤差を除去し、得られた結果に対する信頼性を考慮した帯域推定法について検討し、パラメトリック推定手法だけでなくノンパラメトリック推定法を用いた推定帯域の信頼区間の導出方法を示した。また、信頼区間に基づいたパケット数の適応型制御方法について提案を行った。

しかし、リンクの帯域が正確に計測できたとしても、インターネット上におけるボトルネックとなる箇所が不明であるという問題がある。ボトルネックを特定するためには、エンドホスト間で送受信されるトラヒックの特性を詳細に調査することが必要となる。そこで、本研究では、まず通信においてボトルネックとなりうる要因を挙げ、それらのボトルネックとなる要因の中から、現在ボトルネックとなっている要因を特定するための手法を提案した。また、実際にネットワーク上のホストに対しトラヒック測定を行い、現在ボトルネックとなっている箇所の特定を行った。さらに、実際にネットワークの回線容量を設計する際には、エンドホスト間の通信においてボトルネックとなるリンクのトラヒック特性を調査する必要がある。そこで、本研究では、通信におけるボトルネックとなっているリンクの回線利用率を求める手法を提案することで、回線容量の設計に対する指標を与える。数値結果より、提案方式を使用することによってネットワークの状況に左右されにくいロバストな推定が可能になることを示した。最後に、以上の計測結果に基づいた回線容量を設計する方法を示している。

[関連発表論文]

インターネットの遅延特性とリアルタイムアプリケーションへの応用

インターネットアプリケーションにおける重要な通信品質特性としてパケット転送遅延が挙げられる。実際に、TCPやストリーミングアプリケーションにおいて通信品質を考慮した転送を行うには、パケット転送遅延時間の予測が必要であり、特にパケットロスを検知するためには、遅延分布のすその部分の特性を明らかにすることが重要となる。本研究では、まず測定ツールを用いてパケット転送遅延を測定し確率分布関数による分布のモデル化を行った。統計分析においては、特に分布のすその部分に着目し、時間帯による遅延特性の変化や確率分布のパラメータ推定のモデル化における精度も明らかにし、その結果、パレート分布が遅延分布のモデルとして最適であることを示した。さらに、統計分析の結果をストリーミングアプリケーションに適用し、ユーザの要求する通信品質を実現できるプレイアウト制御アルゴリズムを提案した。また、数値結果により提案アルゴリズムの有効性を示している。

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