マルチメディアQoSアーキテクチャに関する研究

ADSL、CATV、FTTHといった高速回線に高性能なコンピュータを接続することで、ライブ中継、音楽・映像配信、インターネット電話などの分散型マルチメディアアプリケーションの利用が容易になってきている。しかしながら、現状のマルチメディアシステムは、指定されたマルチメディアデータをユーザに届ける役割を果たしているにすぎず、必ずしもユーザの要求を満足することのできる内容、品質のデータを適切なタイミングで提供しているわけでない。分散型マルチメディアシステムにおいて、ユーザに対する通信サービス品質 (QoS) 保証を実現するには、ユーザの要求に基づいて高品質なマルチメディアデータを効率よく効果的にユーザに提供するメカニズムが必要不可欠である。特に、多数のユーザが参加するマルチキャスト通信においては、ユーザごとに異なる様々なQoS要求を同時に満足することが求められる。本研究テーマでは、マルチメディアシステムを構成するネットワークとエンドシステムが協調、連携することによりユーザに対するQoS保証を実現する、統合化マルチメディアQoSアーキテクチャの確立を目指している。

アクティブネットワークにおけるフィルタリングを用いた動画像マルチキャスト

実時間動画像マルチキャスト通信においては、それぞれのユーザのネットワーク接続形態、介在するネットワークの負荷状態、クライアントシステムの構成・能力がさまざまに異なるため、それぞれのユーザが快適に受信、復号、再生、鑑賞することのできる動画像品質(レート)が異なる。本研究では、ユーザやネットワーク管理者によって動的かつ柔軟にネットワークの振る舞いを変更することのできる、新しいネットワークアーキテクチャであるアクティブネットワーク技術を用い、すべてのユーザの品質要求を満たしつつ効率的な実時間動画像マルチキャストを実現するためのフレームワークを提案している。アクティブノードと呼ばれる網内の高機能ノードで動画像品質調整を行い、これを根とするマルチキャストグループを階層的に組み合わせることにより、多数のクライアントの様々な要求品質にあった動画像をマルチキャスト配信する。本研究では、ネットワークのトポロジーや負荷状態、ユーザの要求品質などに基づいて適切なアクティブノードを選択するアルゴリズムを提案し、シミュレーション評価により、ネットワーク資源、ノード資源、エンドシステム資源を有効に利用しつつ、QoS保証可能な実時間動画像マルチキャストが行えることを示した。また、アクティブノードにおいて、下流のノード、クライアントの要求品質に応じて動画像の品質を調整するためのメカニズムについて検討、実証実験を行い、品質劣化を抑えつつ実時間で所望の品質を達成する動画像品質調整機構が実現可能であることを示した。

[関連発表論文]

ユーザ効用最大化を目的とした実時間動画像マルチキャストのための統合化資源割当

実時間動画像マルチキャストにおいて転送遅延や動画像品質を保証するためには、帯域予約型ネットワークとリアルタイムOSによって構築された資源予約型システムを用いて必要十分な資源を確保すればよい。しかしながら、動画像サーバのCPU資源は有限であり、それぞれのクライアントのアクセス回線容量や利用可能なCPU資源は様々に異なるため、効率よく高品質な動画像マルチキャストを実現するためには、限られたこれら資源をシステム全体で効果的に割り当てることが必要になる。そこで、本研究では、ネットワークおよびエンドシステム双方の資源を考慮してシステム全体で統合的に資源割当を行う制御手法を提案した。提案手法では、まず、利用可能なCPU資源とアクセス回線容量に従ってクライアントを複数のクラスタに収容、これをマルチキャストグループとすることで、サーバCPU資源、ネットワーク資源の効率的利用を図る。次に、QoSマッピング手法によって与えられるシステム資源と動画像品質の関係に基づき資源割当を行う。資源割当に際しては、ユーザに提供される動画像の品質(利得)、必要となる資源の対価(コスト)によって表される効用をシステム全体で最大化することにより、マルチキャストグループ内、グループ間の資源配分を決定する。実データに基づくシミュレーションにより、提案手法を用いることで、限られたシステム資源の範囲内で高品質な実時間動画像マルチキャスト通信が可能になることを示した。

[関連発表論文]

動画像品質調整による輻輳適応型動画像レート制御

通信品質保証のないインターネットにおいては、UDPを用いて送出されるマルチメディアトラヒックにより、輻輳制御機構を有するTCPを用いたデータ通信アプリケーションの著しい品質劣化が引き起こされる。そこで、本研究では、TCPと同様にネットワークの負荷状態に応じて送出レートを調整する輻輳適応型動画像レート制御手法を提案した。提案手法は、"TCP-friendly"の概念に基づいて決定される動画像データ送出レートに応じて、動画像品質調整により動画像データ生成量を調整、送出することで、使用帯域に関するTCPとの公平性を実現する。送出レートの変動が再生動画像品質に与える影響を低く抑えつつ、TCPと公平な動画像通信を行うための、送出レートの設定手法、ネットワーク状態の推定法、制御間隔の決定手法、動画像品質調整手法について検討し、実証実験やシミュレーションにより提案手法の有効性、実用性を検証した。本研究では、広帯域での動画像通信に適した符号化方式であるMPEG-2、および狭帯域向けのMPEG-4の両者を扱っており、ネットワーク環境に応じてこれらを使い分けることにより、既存のデータ通信アプリケーションとの親和性が高い実時間動画像通信を実現することができる。

[関連発表論文]

動画像ストリーミングのためのプロキシキャッシング

動画像、音声などのストリーム型マルチメディアデータのクライアントにおける一時蓄積、逐次再生を前提とした、ストリーミングサービスにおいては、ウェブシステムで広く用いられているプロキシ技術が、サービスの可用性、応答性を高めるために有効であると考えられる。また、プロキシを利用することにより、ネットワークやサーバへの負荷を軽減、分散することができる。さらに、プロキシに動画像品質調整機能を導入することにより、クライアントごと、また、時間によって様々に異なる要求品質を効率よく満たすことができると考えられる。そこで、本研究では、動画像ストリーミングサービスのための動画像品質調整可能なプロキシキャッシュサーバにおけるプロキシキャッシングアルゴリズムを提案した。提案アルゴリズムでは、動画像ストリームを複数の固まりに分割し、これらを単位として転送、蓄積、加工することで、キャッシュバッファの有効利用を図る。また、ストリーム型メディアではデータの参照順が予測可能であることを利用し、空き帯域を利用したデータの先読み、キャッシュバッファ内データの掃き出しを行う。さらに、複数のプロキシキャッシュサーバが連携し、動画像データを交換することでより効率のよい動画像ストリーミングサービスを実現するメカニズムについても検討した。実データを用いたシミュレーション、および実証実験により、必要となるバッファサイズ、再生開始までの待ち時間、再生中の停止時間、帯域の利用効率などにおいて、提案手法が高い性能を示すことを明らかにした。

[関連発表論文]