7. 次世代トラヒックエンジニアリングに関する研究

7.1. 予測型ネットワーク制御技術に関する研究

7.1.1. モデル予測制御を用いたトラヒックエンジニアリング手法(NTT ネットワーク基盤技術研究所との共同研究)

近年、ストリーミング配信やクラウドサービス等のインターネットを介したサービスが普及するにつれて、ネットワークを流れるトラヒックの時間変動は大きくなってきている。バックボーンネットワークでは、このような大きなトラヒック変動が生じる場合にも、輻輳を生じることなく全トラヒックを収容する必要がある。単純な方法としては、トラヒック需要に対してリンクの帯域を過剰に増設するオーバープロビジョニングがあるが、この場合、不必要に大きな帯域を用意するため、過剰な設備投資コストを要する。また、近年、リンク利用率の低い不要なポートの電源をオフにすることで、消費電力を削減するなど、限られたリンク帯域でトラヒックを収容することが求められてきている。ネットワークの資源を効率的に利用することで、限られた資源下においても、輻輳を生じることなくトラヒックを収容する技術として、トラヒックエンジニアリング (TE: Traffic Engineering) がある。TEでは定期的なトラヒックの観測により、トラヒック変動を把握し、各時刻で観測されたトラヒックに合致した経路を設定する。しかしながら、従来のTEでは、観測時点に合わせた経路を設定するのみであり、経路変更後に発生したトラヒック変動に対応できず、輻輳を生じる可能性がある。このような問題を解消する方法として、トラヒック予測と連携し、予測された将来のトラヒック変動を考慮したTEが考えられる。この手法では、定期的に観測されたトラヒック変動を基に将来のトラヒック変動を予測し、その予測値に合わせた経路の設定を行う。これにより、トラヒック変動に先立って経路変更を進めることができ、トラヒック変動時にも輻輳を回避した経路を設定可能である。もちろん、トラヒック予測には予測誤差が含まれるため、観測値のかわりに単純に予測値を用いるだけでは、予測誤差の影響を受けた不適切な経路変更を行う可能性がある。本研究では、予測を用いた制御理論であるモデル予測制御 (MPC: Model Predictive Control) の考え方をTEに取り入れ、予測を修正しながら、経路を再計算することで、予測誤差が生じた場合にも即座に修正の可能なTE手法を提案した。そして、実データを用いたシミュレーションにより、提案手法が、予測誤差の生じる場合においても、輻輳を回避した動的な経路設定を行うことができることを示した。 本研究では、さらに、ネットワークの規模が大きくなった際にも、短時間で将来のトラヒック予測を踏まえた経路の計算を行うため、ネットワークを階層的に複数の範囲に分割し、分割された各範囲でトラヒック予測及び、経路制御を行うことで、制御負荷を削減しつつ全体の経路制御を実行する手法も提案した。その結果、100台規模のネットワークにおいても、階層的な分割を行うことにより、10秒以内で適切な経路を計算できることを示した。

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