3. 次世代サービスネットワークアーキテクチャに関する研究

3.1. ネットワーク仮想化技術を用いたサービス実現手法に関する研究

3.1.1. 進化適応性を有するネットワーク仮想化システムの設計技術に関する研究(1.2.1項再掲)

進化適応性を有する情報ネットワークの構築に向け、生物システムなどの自己組織的に動作するシステムにおいて外的要因の急激な変化に対して安定的に機能提供可能であることを説明するBow-Tie構造、Core-Periphery構造に着目した研究を進めている。Bow-Tie構造、Core-Periphery構造では、システム全体を、安定的かつ効率的に動作するCoreと外的要因の変化に応じて動作形態を変えるPeripheryの二つの要素で捉える。

本研究では、NFVに着目し、そのネットワーク機能(VNF)の設計・配置にCore/Periphery構造を取り入れる効果を評価した。NFV は、VNFを接続することで様々なアプリケーションサービスを提供可能なシステムであり、既存のVNFを用いて新たなサービス要求を収容することで、追加のVNF開発コストを抑えることが期待される。しかしながら、事前に多くのVNFを用意するとNFVのシステムコストの増加に繋がる。一方で、事前に用意するVNFが少ないと、将来のサービス要求収容に際した追加のVNF開発コストが増加する。したがって、現在および将来のサービス要求を低コストで収容可能なNFVシステムのソフトウェア設計が重要となる。以下の論文では、まず、新たなサービス要求を収容する際のVNF開発コストを削減可能な設計方針としてCPBD (Core/Periphery Based Design)を導入した。CPBDでは、コアVNFを事前に開発し、現在および将来のサービス要求の収容に繰り替えし用いられる。また、ペリフェリーVNFがそれぞれのサービス要求専用に開発され、コアVNFのみでは対応できない機能を担う。評価の結果、CPBDは、コアVNFを用いない設計方針と比べて、長期的なVNF開発コストを約23% 削減することを示した。次に、CPBDに適切なVNFの配置方針を検討した。CPBDにおけるコアVNFの配置方針が異なるCLCP (Center-Located Core/Periphery placement) policyおよび GDCP (Geographically-Distributed Core/Periphery placement) policyを考案し、長期的なNFVのシステムコストを比較評価した。リソース制約がない場合、CLCPおよびGDCPは、コアVNFを考慮せずに配置する既存のVNF配置アルゴリズムの結果と比べ、長期的なコストを約 15.83% 削減することを確認した。さらに、VNF実行時のコンピューティングリソースや帯域リソースの制約がある場合、GDCPはCLCPと比べ約11.10%のコストを削減可能であることを示した。

上記のCore/Periphery構造の適用例として、ネットワーク型の複合現実サービスを設計、実装した。ネットワーク型の複合現実サービスでは、ユーザの要求や環境が変化しても振る舞いが変わらない機能をコア機能とし、ユーザの要求や環境が変化した場合に挙動が変わるものをペリフェリー機能としている。実験の結果、サービス応答時間の増加を31ms程度に抑制しながら、実装コストおよび遠隔ロボット間の情報共有のオーバーヘッドを削減できることが明らかとなった。

コアペリフェリー構造に基づくNFVシステムの設計
実装したネットワーク型複合現実サービスの構成
[関連発表論文]

3.1.2. ベイズ推定にもとづく仮想ネットワーク再構成手法に関する研究(1.3.1項再掲)

我々の研究グループでは、対地間トラヒックマトリクスの情報を用いない手法として、人間の認知・意思決定の振る舞いをモデル化したベイジアンアトラクターモデル(BAM) を応用したVN 再構成手法を研究してきた。この手法は、特定のトラヒック状況(アトラクター)およびそれに対して良好な性能を示す仮想ネットワーク(VN) を複数保持しておき、ベイズ推定により現在のトラヒック状況を同定し、適したVN を構成する。トラヒック状況を表す情報としては、対地間トラヒックマトリクスより容易に利用可能なエッジルータにおけるトラヒック流出入量を用いる。本手法は、あらかじめ特定した複数のトラヒック状況が与えられた上で、トラヒックを観測する度に現在のトラヒック状況がそれらの状況に合致する確率(確信度)を更新し、それが閾値に達したときトラヒック状況を同定する。BAMは人間の認知・意思決定の振る舞いをモデル化したものであるが、VN 再構成の迅速性や正確性を得るにあたっては、閾値やそれに関連するモデルパラメータを適切に設定することとBAM のパラメータに応じて保持するアトラクターを適切に設計することが重要である。

本研究では、脳科学の知見をもとにVN 再構成の迅速性と正確性の双方を満たす VN 再構成手法の確立に取り組んでいる。人間の脳には速度を重視する認知経路 (ファストパスウェイ) と精度を重視する認知経路 (スローパスウェイ) がありこれらを組み合わせて認知を行っていることが近年明らかにされている。そこで、迅速な意思決定のための fast-pathway-BAM (FP-BAM) と正確な意思決定のための slow-pathway-BAM (SP-BAM) を並行に動作させることを考える。

VN 再構成手法では、迅速性と正確性の実現に必要なFP-BAM, SP-BAM のパラメータ指針を設計し、各 BAM の役割とパラメータ指針に適した VNT の設計方法を考案した。SP-BAM はヒューリスティックアルゴリズムを使用して、特定のトラヒック状況で良い性能を発揮する VNT を多数用意し、FP-BAM は、より多くのトラフィック状況に対応するため、仮想リンクが形成される頻度に基づいて、より多くのトラフィック状況のパターンである程度実行する VNT をいくつか準備する。シミュレーション評価により、FP-BAM が SP-BAM よりも 70% 少ないステップでトラヒック状況を同定することを示す。また、SP-BAM の VNTは、トラヒック量の多いノードペア間で仮想リンクを形成する確率が高く、FP-BAM の VNT よりも最大で 45% 高くなることを示した。FP-BAM と SP-BAM を並行して動作させる VN 再構成手法を用いることで、トラヒック状況の変化に伴う輻輳を迅速に解消し、よりトラヒック状況に適した VNT を構成することが明らかとなった。

ヒトの認知経路モデル
2 つの認知経路を用いた VN 再構成手法
SDNを用いたIoT実験ネットワーク
[関連発表論文]

3.1.3. 脳の情報処理機構の拡張によるVNT制御手法 (NECブレイン・インスパイヤード・コンピューティング協働研究所における成果)(1.3.2項再掲)

将来の IoT アプリケーション等、通信の多様化が予想される中で、ネットワーク仮想化技術を用いて各アプリケーションに合わせた柔軟なネットワーク構築が望まれている。しかし、広域ネットワーク上にアプリケーションを展開する場合、すべてのトラフィック情報を収集することは困難である。そのため、データの不完全性やトラフィックの動的変化による情報の不確実性を考慮する必要がある。本研究グループでは、意思決定の際に不確実な情報を考慮したベイズ型アトラクターモデルに基づく仮想ネットワーク再構築手法を提案しているが、従来の手法では事前にアトラクターを設計する必要があり動的な環境下での運用に不利であった。本研究では、制御フィードバックを用いて、環境が変化したときに自動的にアトラクターを更新する手法を提案している。シミュレーションによる評価の結果、ノイズ耐性を維持したまま未知の状況にも対応できることが示された。

[関連発表論文]

3.2. 次世代移動体通信ネットワークに関する研究

3.2.1. M2M/IoT通信収容のためのモバイルコアネットワークアーキテクチャの確立

携帯電話加入者数の増加や高機能なスマートフォン等の普及により、モバイルネットワークにおいて、ユーザプレーンとコントロールプレーンの双方において発生する輻輳への対応が課題となっている。特にコントロールプレーンの輻輳については、新たな需要拡大を伴う通信形態であるMachine-to-Machine (M2M) 通信やIoT (Internet of Things) 通信による影響が大きいと指摘されている。M2M/IoT通信は、通信するデータ量そのものは多くはないが、端末数が膨大になるとされており、その通信特性はユーザ端末のそれとは大きく異なる。そのため、M2M/IoT通信を行う端末を従来端末と同じ方式でモバイルネットワークに接続すると、特にコントロールプレーンの輻輳が悪化すると考えられる。

そこで本研究では、セルラIoT通信を考慮したモバイルセルラネットワークの性能解析を行うことで、端末収容能力の評価を行った。具体的には、IoTのためのセルラ通信としてLTE及びNB-IoTを対象とし、端末がアイドル状態からアクティブ状態になり、通信を行うまでの一連の動作における、制御プレーン及びユーザプレーンの性能解析を行った。解析はランダムアクセス手順、無線資源の割当、ベアラ確立、データ転送の各プロセスを含むエンドツーエンドで行った。また、IoT通信に多いサイズの小さなデータ通信において有効と考えられる、データ転送終了後直ちに無線資源を解放する手法の評価を行った。評価の結果、NB-IoTがLTEに比べて最大で8.7倍の端末を収容できるが、データ転送時間が大きいことを示した。また、無線資源の即時開放によってネットワーク容量が最大で17.7倍に拡大し、IoT端末の収容に効果的であることを示した。

[関連発表論文]

3.2.2. 仮想化技術に基づくモバイルアクセスネットワークの消費電力削減効果(沖電気との共同研究)

5Gネットワークや将来のBeyond 5Gネットワークにおいては、モバイルネットワークを構成するRadio Access Network (RAN)やフロントホールネットワーク、バックホールネットワークの再考が進んでいる。そのような新たなネットワークにおいては、資源利用効率を高めるために、計算機資源やネットワーク資源の仮想化技術が前提となる。特に、Software Defined Network (SDN)技術は、ネットワークの柔軟な制御を可能とする重要な技術として考えられている。モバイルネットワークに対して仮想化技術を適用することで、トラヒック需要の変動に応じた柔軟な計算機資源の制御やネットワーク制御が可能となる。例えば、従来ハードウェアによって行われていた、モバイルトラヒックのベースバンド処理をソフトウェア化し、トラヒック量やアプリケーション要求等に応じてその実行箇所を決定することによって、フロントホールネットワークの利用率の削減や、システム全体の省電力化が可能であると考えられている。

そこで本研究では、TWDM-PONを用いて構築される第5世代携帯電話ネットワークのためのフロントホールネットワークを対象に、ベースバンド処理、モバイルコア処理、及びアプリケーション処理の機能分割の最適化を行うための新たな数学モデルを構築し、最適な機能配置を得るための最適化問題として定式化した。具体的には、TWDM-PONのネットワーク資源量、基地局数、トラヒック量、サーバの消費電力などを考慮して、ベースバンド処理の各レイヤの処理、モバイルコア処理、及びアプリケーション処理を、基地局サイト、局舎サイト、及びクラウド環境において分割して実行することで、システム性能を最適化する最適化問題を定義した。解析結果の数値例を示すことによって、システムの各パラメータと最適な機能分割との関係を明らかにした。

[関連発表論文]

3.2.3. Beyond 5Gネットワークのためのユーザ指向型ネットワークアーキテクチャ

5Gネットワークにおいては、物理的なネットワーク資源を仮想化したネットワークスライスをサービスやアプリケーション毎に構築し、端末を収容することで、大容量通信、超多数通信、機器間通信などの様々な品質要求を持つ端末を効率的かつ柔軟にネットワークに収容することが検討されている。しかし、将来のBeyond 5Gや6Gネットワークにおいては、ユーザのネットワークやアプリケーションに対する要求はさらに細分化かつ個人化することが期待されており、5Gにおけるサービス単位のスライス提供ではそのような多様な要求に応えることができない。

そこで本研究では、User-Oriented Network slicing Architecture (UONA) と呼ぶ新しいネットワークアーキテクチャを提案した。その特徴は、サービス/アプリケーション毎ではなく、ユーザ毎にネットワークスライスを構築・提供することにより、多様な要求に応えること、ネットワークスライスを構築するプロセスを、部分的なネットワークに対応するサブスライスの構築と、サブスライスを組み合わせてネットワークスライスを構築する2つに分割すること、及び、端末のモビリティ、要求品質の変化に応じて動的にスライスを再構成すること、にある。本研究では、UONAの全体アーキテクチャの詳細を提示し、その利点と実現にあたっての課題をまとめた。

また、UONAの有効性を示すために、モバイルネットワークにおいて、物理的なセルを仮想化した仮想セルを構築することによって端末のハンドオーバ時の処理を軽減する、というシナリオを想定し、5Gのサービス単位でネットワークスライスを提供する手法と、UONAによる動的かつユーザ単位でネットワークスライスを提供する手法の比較評価を行った。その結果、UONAにおいて適切にパラメータチューニングを行うことで、物理的なセルの大きさ、端末の移動速度、シグナリングにかかる時間の大きさに依らず、端末のハンドオーバ処理における、ネットワーク側のシグナリング負荷を小さくできること、また、端末がより時間のかかるハンドオーバ処理を実行する頻度を低減できることを明らかにした。

[関連発表論文]

3.3. ネットワークサービスのエコシステム構築に関する研究

3.3.1. API エコノミーに関する研究(富士通研究所との共同研究)

ネットワークの高速化やクラウド技術の進展を背景に、ネットワークを利用する様々なアプリケーションやサービスが登場しており、最近では、企業等が抱える情報処理をAPI化やデータ提供そのものをAPI化し、APIを用いてサービスを連結し新たな価値を生み出すAPI エコノミーが注目されている。本研究では、APIエコノミーにおけるプラットフォーム提供者の事業戦略の1つとしてAPIの評価者の取り込みに着目し、サービス提供者・コンシューマー・API評価者からなる多面的市場のモデル化に取り組み、モデルを用いてプラットフォーム提供者によるAPI評価者取り込みの効果が得られる成立条件とプラットフォーム提供者の最適戦略を明らかにした。プラットフォーム提供者の利益を効用関数とし最大化を図る場合、API評価者を含む多面的市場ではAPI評価者の作用によってプラットフォーム提供者の利益が増加することがわかった。しかし、利益が増加する一方で、サービス提供者やコンシューマーからプラットフォーム提供者への支払いが増大し、市場参加者の数は減少することも明らかとなった。プラットフォーム提供者にとっては、一般的には利益が重要であるが、市場が導入初期であり参画者人数が多くない段階では利益の最適化だけではなく市場参加者数の増大も重要である。そこで、プラットフォーム提供者の効用関数として、利益と市場参加者数の加重和を多面的市場モデルに導入し、API評価者の参画によって、ラットフォーム提供者が利益を得つつ、市場への参加者数が増加するパラメータ領域を明らかにした。消費者と開発者間に強い相互作用が生じる市場においては、API評価者によって市場参加者数は5.46%増加し、プラットフォームの利益はAPI評価者がない場合の4.5倍となることを示した。

API評価者を取り入れたAPIエコノミーの多面的市場モデル
[関連発表論文]

3.4. サプライチェーンのデータプライバシーに関する研究

3.4.1. ブロックチェーンを利用したサプライチェーンシステムにおけるデータプライバシー保護

近年、サプライチェーンのグローバル化に伴い、偽造品の流通拡大や、問題が発生した製品の所在特定に要する時間の増大など、様々な問題が顕在化してきている。これらの問題を解決するために、サプライチェーンにおける追跡性を高い水準で担保することが急務の課題である。課題解決のアプローチとして、ブロックチェーンを用いて製品情報を管理する手法が提案されている。これら既存手法では、ブロックチェーンを、サプライチェーン情報を管理するための共有データベースとして利用することで、サプライチェーンにおける流通情報を統合管理する。ブロックチェーンは透明性と改ざん耐性を有することから、流通情報の真正性が担保される。こうした特性から、サプライチェーンにブロックチェーンを適用することで追跡性、すなわち流通における製品の所在を特定できることを担保できる。しかし一方で、ブロックチェーンに記録されている情報は誰でも閲覧可能であるため、データプライバシーが保護されない。サプライチェーンにおいては、競争優位を築いている企業間の流通情報や、二次流通市場における個人間の流通情報など、プライバシー性の高い情報までもが公開されてしまう。そこで本報告では、流通情報を暗号化によって隠蔽することで事業者のデータプライバシーを保護する方法を提案する。また不正な流通を防ぐために、事業者がゼロ知識証明を利用することで、ある製品の真正な流通業者であることを証明しつつも、事業者の特定に繋がる情報を知られないようにする方法も提案する。提案手法が十分な追跡性を担保できることを確かめるために、Ethereumのスマートコントラクトを用いて提案手法を実装し、様々な製品流通のシナリオに基づいて実動作の確認を行った。その結果、流通情報を隠蔽できること、不正な流通を防げること、製造者による製品の追跡および製品の所在特定ができることを確認した。また、流通に関与する一人あたりの手数料は高々2.2×〖10〗^6 gasであることを確認した。

[関連発表論文]

3.5. ユーザQoE (Quality of Experience) の向上に関する研究

3.5.1. 動画像視聴ユーザの脳波情報を用いた機械学習によるQoE推定手法の実装と評価(1.4.1項再掲)

近年、動画像ストリーミングサービスにおいて、ユーザのQoEを向上するようなビットレート選択を行う手法の研究が行われている。ビットレートの選択において、ユーザのQoEを利用するためには、そのユーザ個人に適したQoEの測定が実時間で行えることが必要である。しかしながら、従来用いられているQoEの測定方法の多くは、通信品質のみに基づいてユーザのQoEを推定するもの、あるいはユーザにアンケートを取り、ユーザ自身が知覚したQoEを自己申告したデータを後に利用するというものであり、ユーザの個人差や実時間での測定という要件を満たしてはいない。また、動画のビットレート制御への利用に向けたQoE推定ではQoEに対するユーザの内的要因を考慮した上で、映像の品質変化に起因するQoEの変化を鋭敏に把握することが必要である。そこで本研究では、被験者実験により収集した映像視聴中のQoE情報と、被験者の脳波(EEG)情報を用いてQoEを推定する手法を提案し、その評価を行った。まず、EEG情報から特徴量を抽出し、サポートベクターマシンと遺伝的アルゴリズムを組み合わせることで、ユーザのQoE推定を行う分類器を作成した。また、脳波における事象関連電位の一つであるP300に着目し、動画の品質の低下を被験者が認知したかどうかを分類した。評価の結果、QoEの低下を最大76.0%、平均49.3%で推定できることを示した。

[関連発表論文]

3.5.2. 心理的効果を含めたユーザ行動のモデル化とQoE制御手法への応用に関する研究(1.4.2項再掲)

ネットワーク仮想化などユーザの需要に合わせて柔軟な制御が可能となり始めた今日では、ユーザが体感するサービス品質(QoE; Quality of Experience)を考慮した制御が望まれている。このようなユーザ QoEのモデル化に関する研究は、従来進められてきたものの、ユーザの心理的効果によってQoEに影響を及ぼすため、従来のモデルではモデル化が困難な状況が生じる。一方で、人の認知状態及び意思決定を表現するモデルとして、近年、量子意思決定が注目され始めており、これは、従来の認知モデルでは表現が困難な、人の心理的効果も含めたモデルとなっている。本研究では、量子意思決定モデルにより動画視聴中のユーザのQoEのモデルを提案した。提案モデルでは、認知バイアスの時間発展を表すアンカリング効果と量子意思決定を統合することで、時間発展を扱うことができるように量子意思決定モデルを拡張し、ユーザのQoEの時間変化をモデル化している。また、実際の動画視聴時のユーザのQoEを計測したデータベースを用いて、提案モデルの評価を行った。評価の結果、量子意思決定を用いた QoE モデルによってユーザの認知バイアスとその時間変化が表現可能であることが示された。

[関連発表論文]