3. 次世代データセンターネットワークアーキテクチャに関する研究

3.1 広域分散コンピューティング環境に関する研究

3.1.1 電力消費を考慮した広域分散コンピューティング環境に関する研究

大規模データセンターへの情報システムの集約が進むと,より大量のデータが広域ネットワークを介して送受信され,データ転送に費やされるエネルギーが増加する.これに対し,トラヒック削減・局所化機能をもつサーバをネットワーク上に分散配置することで,システム全体での省電力化が可能になる.本研究においては,アプリケーション,発生するトラヒック,およびデータ転送を行うためのネットワークを含めたシステム全体のモデルを構築した.また,ルータおよびサーバの電力消費モデルを作成し,システムの電力消費量を定式化する.さらに,分散サーバを設置し転送トラヒックを削減したときの電力消費削減量を評価する.評価の結果,分散サーバ設置数の増加に伴い電力消費量は最大で約20%減少するが,一定台数を超えると,トラヒック削減による電力消費の減少より分散サーバの追加に伴う電力消費の増加の方が大きいため,全体として増加傾向に転じることを明らかにした.

[関連発表論文]

3.1.2 マルチテナント型データセンターにおける仮想ネットワーク配置に関する研究

マルチテナント型データセンターでは,基盤となる物理ネットワークが備える性能を余すことなくテナントに配分し,かつ,物理ネットワークの障害がテナントに与える影響を抑えるため,テナントを構成する仮想ネットワークを物理ネットワーク上に適切に配置することが必要になる.そこで本研究では,まず,テナント用仮想ネットワークのトラヒックフローが物理リンクや物理ノードへ割り当てられている状態をモデル化した.そして,各仮想ネットワークにおいて,各フローの利用可能帯域の合計と物理ネットワークの障害によって失われる帯域の合計の差を有効帯域と定義し,仮想ネットワークの配置問題を定めた.さらに,仮想ネットワークの障害復旧時間のモデルを提示した.次いで,計算機シミュレーションを行い,利用可能帯域,障害により失われる帯域,有効帯域のそれぞれを最適化対象として配置した状態において,仮想ネットワーク全体の有効帯域と障害による停止時間を評価した.その結果,有効帯域を最大化する仮想ネットワークの配置は,物理ネットワークの帯域を使い切り,かつ,障害による停止時間を,利用可能帯域を最大化する配置に比べ1/3 程度に低減できることを示した.

[関連発表論文]

3.2 光通信技術を用いたデータセンターネットワーク構成に関する研究

3.2.1 光パケットスイッチを用いたデータセンターネットワーク構成に関する研究

近年建築が進められている大規模データセンターでは,数千台から数万台の多数のサーバが配置され,サーバ間で連携をとることにより,データの処理が行われている.データセンターで効率的な処理を行うためには,サーバ間に十分な通信帯域を確保する必要がある.そのため,サーバ間に十分な帯域を確保することができるようなトポロジー構造の検討がこれまでも行われていた.しかしながら,従来の電気パケットスイッチを用いた構成では,十分な帯域を確保するためには,消費電力が大きくなってしまう.消費電力を低く抑えつつ,十分な帯域のネットワークを構成する方法として,光パケットスイッチを用いることが考えられる.しかしながら,光パケットスイッチは帯域が大きいため,1 台の故障の影響が大きい.そこで,本研究では,故障が発生しても,サーバ間の接続性を確保しつつ,十分な帯域を確保することができる光パケットスイッチを用いたデータセンターネットワークの構造を提案する.本研究では,シミュレーション評価により,提案する構造では,故障が発生した場合にも,サーバ間の接続性を維持しつつ,十分な帯域を確保できることを確認する.

[関連発表論文]

3.2.2 光ネットワーク技術を用いたデータセンターネットワーク省電力化のための仮想ネットワーク制御技術に関する研究

データセンター内では,サーバ間の連携により多量のデータを処理しており,データセンターの処理性能を確保するためには,サーバ間を十分な帯域・低遅延で接続できるネットワークを構成する必要がある.一方,データセンターの省電力のためにはネットワーク内の機器数を必要最小限にし,消費電力を抑えることが必要とされる.本研究では,電気スイッチと光スイッチを用いて構成されたデータセンターネットワーク上に,サーバ間に確保可能な帯域といった通信要求を満たしつつ,必要な論理リンク数が少ない仮想ネットワークを構築し,仮想ネットワークに用いられない機器の電源を落とすことにより低消費電力化を達成する手法を提案している.評価結果より,提案手法によって構築された仮想ネットワークは,従来型データセンターネットワークとして提案された構造を仮想ネットワークとして構築した場合の半分のリンク数で,サーバ間に十分な帯域を確保することができることが明らかとなった.

[関連発表論文]

3.2.3 経路制御を考慮に入れたデータセンターネットワーク構成に関する研究

データセンター内では,短い間隔で予測不可能なトラヒック変動が発生するため,トラヒック変動に対応しつつ,サーバ間に十分な通信帯域を確保することが必要とされる.そのため,データセンター内では,短い間隔で発生するトラヒック変動に対応しつつ,通信帯域を確保可能な経路制御が必要であり,ネットワーク構成も,そのような経路制御手法が動作可能な構成である必要がある.そこで,本研究では,経路制御手法とネットワーク構成の様々な組み合わせを評価し,トラヒック変動に対応しつつ,多くのトラヒックを収容することができるようなネットワーク構成と経路制御手法の組み合わせを明らかにしている.評価の結果,トラヒック変動に対応するためには,局所的な経路制御が必要であることが確認できた.また,階層的に構築することによりスイッチ間のホップ数を短くしたネットワーク構成において,各スイッチから各階層へのリンク数が均等な構成が,局所的な経路制御を用いた場合に,最も多くサーバ間トラヒックを収容することができることが明らかになった.

[関連発表論文]

3.3 データセンターネットワークのチップ化に関する研究

近年,情報処理におけるデータセンターの持つ役割が大きくなり,データセンターで処理されるデータ量が増加している.年々増加する大量のデータを処理するために,数万台以上のサーバを収容する大規模データセンターが構築されるようになっている.データセンターが大規模になるにつれ,その消費電力は大きなものとなり,低消費電力なデータセンターの構築が大きな課題となっている.データセンターの処理を低消費電力で実現する手法として,Network on Chip (NoC) の技術を用いる事により,データセンター内のサーバ間のネットワークを1 チップに集約するオンチップ型データセンターの検討が進められている.

本研究では,オンチップ型データセンターに適したネットワーク構造として,パケット交換スイッチと回線交換スイッチを,複数階層のチップを積層した3 次元チップ上に立体的に配置することにより,低消費電力と低遅延を両立可能なデータセンター向け3 次元オンチップ型ネットワークの構造を検討している.検討の結果,パケット交換スイッチから全階層の回線交換スイッチにリンクを構築し,各サーバに該当するコアに接続されたパケット交換スイッチはすべて同一階層に配置し,それ以外の階層は回線交換スイッチのみで構成した構成が,遅延・消費電力,いずれの観点においても優れていることが分かった.

[関連発表論文]