6. 次世代トラヒックエンジニアリングに関する研究

6.1 環境変動に対する耐性を有するトラヒックエンジニアリング手法に関する研究

6.1.1 トラヒック変動耐性を考慮した仮想ネットワーク構築手法

クラウドストレージサービス等の様々なネットワークサービスが普及するにつれ,ネットワークを流れるトラヒック量やその時間変動が増大している.このような大容量で時間変化の大きなトラヒックを効率的に収容する方法として,光ネットワーク上に仮想ネットワークを構築し,仮想ネットワークを動的に再構成する手法が提案されている.しかしながら,構築された仮想ネットワークによっては,発生した環境変動に対応するために,大規模な仮想ネットワークの再構成が必要となり,環境変動への対応に時間がかかってしまうという問題も発生する.そこで,本研究では,環境変動への耐性を持つ仮想ネットワークをあらかじめ構築するプロアクティブ型仮想ネットワーク制御を行うことにより,大規模な再構成を行うことなく予測困難な環境変動に対しても小規模なパスの追加のみで対応可能な手法の検討を行う.

本研究では,まず,環境変動に対応して進化する生物が持つ特徴に着想を得て,環境変動に少数のパスの再構成で対応可能な仮想ネットワークが持つ特徴を明らかにする.その結果,その特性を表す指標として,フロー包含関係モジュール度(FIRM)を提案する.そして,FIRM を高く維持するための,プロアクティブ型仮想ネットワーク制御手法を提案する.本研究では,シミュレーションにより,FIRM が環境変動への対応に必要なリンクの追加数を示す指標であること,提案するプロアクティブ再構成を行うことにより,トラヒック変動発生時に追加が必要なパス数を30%削減できることが明らかになった.

[関連発表論文]

6.1.2 トラヒック変動への追随を目的とした階層化トラヒックエンジニアリング手法に関する研究

時間変動が大きなトラヒックを効率的に収容するには,各時刻のトラヒックに合わせて経路を動的に変更するトラヒックエンジニアリング(TE) が有効である.各時刻のトラヒックに合わせてネットワーク全体の経路を変更するためには,経路計算を行うPCE と呼ばれるサーバで,ネットワーク全体のトラヒック情報を収集する必要がある.しかしながら,大規模ネットワークでは,ネットワーク全体のトラヒック情報を頻繁に収集することや,ネットワーク全体の最適な経路を短時間で計算することは困難であり,トラヒック変動によって輻輳等の問題が生じてから,その輻輳を解消するための経路変更を行うまで時間がかかる.そこで,本研究では,ネットワークを地理的に分割,階層化を行い,頻繁に行うことが可能な局所的な制御と,長い周期で行う広い範囲の制御を組み合わせることにより,トラヒック変動発生後,すばやく,適切な経路に移行する手法を提案する.本研究では,シミュレーション評価により,階層化せずに全リンクの情報を用いたTEと比較して,提案手法は半分以下の時間で輻輳を解消することができることが明らかにしている.

[関連発表論文]

6.2 トラヒックエンジニアリングのためのトラヒック予測手法に関する研究

6.2.1 トラヒックエンジニアリングのためのトラヒック予測手法

時間変動の大きなトラヒックを収容する手法として,トラヒックの時間変動やネットワークの状態の変化に対して動的に経路を変更するトラヒックエンジニアリングと呼ばれる手法の検討が進められている.しかし,各時刻のトラヒック量のみを考慮したトラヒックエンジニアリングでは,頻繁に大規模な経路変更が発生し,トラヒックを安定して収容することができない可能性がある.そのため,動的な経路変更を行う際にも,将来にわたるトラヒック変動を予測し,それを踏まえた制御が必要となる.

本研究では,トラヒックエンジニアリングに適したトラヒック予測の検討を行っている.ネットワークを流れるトラヒックは周期的で予測が容易な変動と,予測困難な変動が混在している.そこで本研究では,予測の前処理として予測が容易な変動を取り出し,予測が容易な変動に対する予測と,それ以外の変動の大きさの見積を分けて行った上で,それらをもとにトラヒック変動の信頼区間を得る.

本研究では,さまざまな前処理手法と予測モデルの組み合わせについて,Internet2 で観測されたデータを用いて評価を行い,主成分分析を用いたSARIMA モデルによる予測が過大評価を小さく保ちつつ,過小評価を1%に抑えるということを明らかにしている.

[関連発表論文]