7. 次世代フォトニックネットワークアーキテクチャに関する研究

光伝送技術の発展には目覚しいものがあり,WDM(波長分割多重)技術によってネットワークの回線容量は爆発的に増大してきた.しかし,光伝送技術とネットワーキング技術はおのおの別個の歴史を持ち,インターネットに適した光通信技術の適用形態については明らかになっていないのが現状である.短期的には,高性能・高信頼光パスネットワークがその中心技術になると考えられ,長期的な解としてはフォトニックネットワーク独自の通信技術を用いた大規模かつ分散制御型の光パスネットワークや光パケットスイッチネットワーク,光パスネットワークと光パケットスイッチネットワークを統合した適用形態も十分に考えられる.本研究テーマでは,これらの点に着目した研究を進めている.

7.1 光パスネットワークに関する研究

7.1.1 フォトニックインターネットにおける論理トポロジー制御手法に関する研究(NTTネットワークサービスシステム研究所との共同研究)

P2Pネットワーク,VoIP,動画配信サービスなどの新たなサービスが登場し,ネットワーク上でのトラヒックの変化は大きくなっている.これまで,トラヒック量を既知として効率良く収容するための論理トポロジー制御手法に関する研究が数多くなされているが,トラヒックの変化に対して適応的に論理トポロジーを制御することが重要である.本研究では,ネットワーク性能の最適化のみではなく,環境の変化に対する適応性を備えたネットワーク制御手法として,局所的な情報交換によって予測困難な環境変化に適応する振る舞いにもとづいた論理トポロジー制御の確立に取り組んでいる.これまでに,生物が予測困難な環境変化に適応する振る舞いをモデル化したアトラクター選択に注目し,トラヒック変動に対する適応性を備えた論理トポロジー制御手法を提案し,シミュレーション評価によりトラヒックの変動に対して早く反応し,その変化に適応することを示した.下記の論文では,アトラクター選択を用いた論理トポロジー制御の論理トポロジー算出の計算量を削減し,より短い制御間隔で論理トポロジーを算出する計算量削減手法およびそれを用いた論理トポロジー制御手法の評価を行った.提案する制御手法では,波長分割多重ネットワークを構成するノードそれぞれがアトラクター選択を用いて論理トポロジーの一部を決定する.これにより,従来のアトラクター選択を用いた論理トポロジー制御手法が有するトラヒック変動への高い適応性を維持しつつ,計算時間の削減を可能とする.計算機シミュレーションによる評価の結果,1000 ノード規模のネットワークにおいて,従来のアトラクター選択を用いた論理トポロジー制御手法のCPU総計算時間が1000 秒程度必要とするのに対し,提案制御手法ではCPU総計算時間が32秒となることが明らかとなった.

次に,生物が環境変化に対して適応的に振る舞う様子をモデル化したアトラクター選択を応用した制御方式を用いた場合の,ネットワーク機器の障害による環境変化への適応性を評価した.計算機シミュレーションにより,提案手法は,同時多発的にノード障害が発生した場合でも,95%以上の確率で,一定の負荷以下となる論理トポロジーを構築できることがわかった.

アトラクター選択にもとづく論理トポロジー制御手法では,アトラクターとなる論理トポロジー候補の決定が重要である.しかし,上記の研究においては,ランダムに構成された論理トポロジーを候補としてアトラクターとしていた.そこで,アトラクター選択にもとづく論理トポロジー制御において,どのようなアトラクターを構築するべきかの検討を行い,その指針を提案した.提案手法では,発見的手法を用いて論理トポロジー候補を算出し,平均ホップ長等のトポロジー性能の観点から論理トポロジー候補を絞り込む.

さらに,アトラクター選択により探索される解に多様性を持たせるため,ランダムに構成された論理トポロジー候補を算出し,それらを組み合わせてアトラクターを決定する.計算機シミュレーションによる評価では,決定した論理トポロジー候補を初期アトラクターとして与え,論理トポロジー候補を行う.評価の結果,平均ホップ長の観点から選択した論理トポロジー候補にランダムに算出した論理トポロジー候補を50% 加えたものを初期アトラクターとすることで,全てランダムに算出した論理トポロジー候補を初期アトラクターとする場合よりも,制御成功率が最大約20% 改善されることがわかった.

[関連発表論文]

7.1.2 生命システムに学ぶ論理トポロジー制御手法に関する研究(脳情報通信融合研究センター(CiNet)との共同研究)

環境の変化に対する適応性を備えたネットワーク制御手法として,アトラクター選択を用いた論理トポロジー制御手法を提案している.本研究では,アトラクター選択を用いた論理トポロジー制御手法の性能向上を目的として,アトラクターの学習規則や制御変数の多値化に取り組んでいる.下記の論文では,アトラクターの学習規則としてojaを適用することによって,Hebbを用いる場合と比較して,計算時間が21%削減されることを示した.また,制御変数の多値化によって,良好な論理トポロジーを発見するまでの時間が60%削減されることを示した.

[関連発表論文]

7.2 光パケット/パス統合ネットワークに関する研究

7.2.1 光パケット/パス統合ネットワークの性能評価に関する研究

WDM 技術のインターネットへの適用形態として, 論理トポロジーを構築してパケットを転送するパケット交換型のIP over WDMネットワークや,データ発生時に光パスを構築してデータ転送を行うパス交換型の通信形態が広く検討されてきた.現状のインターネットは,パケット交換原理にもとづく通信形態が主流であるが,トラヒックの増大や関連技術の進展にともない様々な課題が顕在化している.例えば,1) パケット交換により高い回線利用率を達成するためには,ルータのバッファの大容量化と高速化が重要となるが,回線容量の増大とともに必要量の確保が難しい, 2) パケット交換はバッファリングを前提としており,その結果,通信品質の保証が困難となっている,3) また,通信品質をある程度保証するためには,回線容量やルータ処理能力のオーバープロビジョニングが必須となる,4) パケット毎に宛先探索等の処理が必須となるため,パケット数の増加とともに消費電力も増大する,5) 回線容量の増大にともない,パケットのヘッダ処理速度も向上させる必要があり,それにともないインタフェースコストが増大する,などが挙げられる.従って,単にパケット交換型もしくはパス交換型のネットワークを構築するのみでは,近年の多様なアプリケーションやサービスが必要とする通信品質への要求・要望を満たすことは困難であり,パケット交換型ネットワークとパス交換型ネットワークを融合し,それぞれの長所を生かすことが可能なパス/パケット統合ネットワークを構築することが重要であると考えられる.本課題では,このような考えのもと,光パケット/パス統合ネットワークに関する研究に取り組んでいる.下記の論文では,パケット交換ネットワークとパス交換ネットワークに対してそれぞれ波長を割当てることで実現する光パケット/パス統合ネットワークの性能解析手法を提案した.まず,パス交換ネットワークの性能解析手法について,M/G/c/c 待ち行列モデルとReduced Load Approximationを組み合わせたパス棄却率の導出手法を提案し,従来のパス棄却率解析手法と比較して棄却率,並びに,パス設定に要する時間が高い精度で算出されることを示した.次に,提案する性能解析手法と既存のTCPの遅延解析手法と組み合わせた光パケット/パス統合ネットワークの性能解析手法を示した.性能解析手法を用いて光パケット/パス統合ネットワークの性能評価を行った結果,光パケットネットワークに割り当てる波長が多い場合,TCPの輻輳制御によりデータ転送完了までの時間(レイテンシ)が増大することが明らかとなった.一方,光パケットネットワークに割り当てる波長が少ない場合には,一部のTCPフローのレイテンシは大きくなり,また,TCPフローが転送するデータサイズが大きくなるとともにレイテンシ増大が顕著となることが明らかとなった.

[関連発表論文]