6. 次世代クラウドアーキテクチャに関する研究

6.1. クラウドシステムの高性能化に関する研究

6.1.1. クラウドシステムにおける予測に基づく資源割当制御に関する研究

ベアメタルクラウドシステムはテナントに対して専用の物理マシン、およびその上で稼働する仮想マシンを提供する。本システムおいては需要に応じた物理マシンおよび仮想マシンのスケールアウト/インの制御が重要となる。その際、物理マシンと仮想マシンの資源確保やマシンの起動、終了にかかる時間的コスト(リードタイム)の違いを考慮し、適切なタイミングで物理マシンと仮想マシン資源を増減させる必要がある。しかし、既存研究にはその点に着目したものがほとんど無い。

本研究では、階層的、かつ資源制御頻度を考慮した、モデル予測制御に基づく物理マシン及び仮想マシン資源の制御手法を提案した。具体的には資源の利用効率と設定変更にかかるオーバヘッドの双方を考慮する。また、リードタイムが大きい物理マシンの資源増減をできるだけ行わず、仮想マシンを需要に応じて起動・終了させる。実システムのアクセスログを用いた評価により、提案手法がSLA違反をほとんど起こすことなく、適切に資源制御を行えることを示した。

また、クラウドコンピューティングにおけるさらなる弾力的な資源制御のために、アプリケーションシステムへのリクエスト到着レートの増減に合わせて、計算資源を増減させると同時に制御の緩急を調整する手法を提案した。具体的には、まず、対話型処理を扱うクラウド上のアプリケーションシステムを対象とした自動スケーリングにおいて、制御間隔ごとにリクエスト到着レートの予測を行い、仮想サーバの台数を増減させる。フラッシュクラウドの例を含む実システムのトレースデータを用いて評価を行い、従来の固定長タイムスロットでの制御に比較して、タイムスロット幅を可変とすることで、従来の2/3 から1/2 程度の構成変更回数で、従来同等の余剰処理能力が保たれることを示した。また、リクエスト到着レートの分単位の変動の大きなアプリケーションシステムでは、タイムスロット幅を小さくすると予測誤差が大きくなり、その結果仮想サーバの過少割り当てが発生することを示した。

[関連発表論文]

6.2. ネットワーク省電力化のためのトラヒックエンジニアリングに関する研究

6.2.1. パレート最適制御にもとづくネットワーク省電力化手法に関する研究

ストリーミング配信や、クラウドサービス等のインターネットを介したサービスの普及に伴うトラヒックの増加により、ネットワークにおける消費電力の増加は大きな課題となっており、ネットワークの消費電力を削減する手法の検討が進められている。ネットワークの消費電力を削減する手法では、ネットワークを流れるトラヒック量が時間帯により大きく異なることから、各時間帯において必要な通信性能を確保するのに必要十分なネットワークを構築し、不要なネットワークの機器やサーバをスリープさせる。これによって、通信量が多く、少数のネットワーク機器では十分な性能を確保することができない場合は、多数のネットワーク機器を動作させることにより十分な処理性能を確保し、逆に、通信量が少ない時間帯には、多くの機器をスリープさせることによって低消費電力化が可能となる。

従来、ネットワーク低消費電力化手法の検討では、性能と消費電力のトレードオフに焦点があてられており、信頼性の確保については考慮されてこなかった。しかしながら、現実のネットワークサービスでは、故障が発生した際にも、故障発生により性能低下する時間を一定以下とすることが求められる。

そこで、本研究では、短時間のトラヒック変動や故障などの環境変動に追随して、十分な通信性能、信頼性の確保と低消費電力化の3つの目的を達成するネットワーク制御手法を確立する。ネットワークの制御を行うにあたり、耐故障性を確保しようとすればオンになるノードやリンクが増加するため消費電力は増加し、性能を確保しようとしても消費電力は増加する。本研究では、これらの指標をすべて考慮した制御を実現する手法として、パレート最適解の集合(パレートフロント)を求め、そのうち、必要な性能・信頼性の制約を満たす解をネットワークに投入することにより、性能・信頼性の要件を満たす範囲内で、消費電力を最小化する。

本制御をネットワーク内の環境変動に追随して行うためには、パレートフロントの計算も環境変動に追随して行うことが必要となる。そこで、本研究では、パレートフロントの計算を高速に行う手法を検討する。本手法では、前の時刻のパレートフロントと、様々なネットワーク構成に進化する可能性の高い解を組み合わせた集合を初期解とし、進化計算により、現在の環境に合わせたパレートフロントを探索する。これにより、少ないステップで適切なパレートフロントにたどり着くことができ、高速なパレートフロントの取得が可能となる。

本研究では、提案手法をシミュレーションにより評価を行った。評価の結果、提案手法を用いることにより、環境変動に追随し、性能・信頼性の要件を満たしつつ、トラヒックが少ない時間帯であれば、全機器稼働状態の39%までネットワークの消費電力を低減することができることを示した。

[関連発表論文]