5. 次世代エッジコンピューティングに関する研究

5.1. マイクロデータセンターにおけるメモリ分離型アーキテクチャに関する研究

5.1.1. リソース分離型マイクロデータセンターにおけるリモートメモリ活用手法

近年、計算機および計算機によって構成されるネットワークやインターネットの発展は著しく、手元の機器では実行困難な処理も、クラウドを用いることでネットワークにさえつながっていれば実行することができるようになった。クラウドによる処理は、ユーザ側から離れた場所にある大規模なデータセンターとの通信を行い、データセンター側で処理をしていく。そのため、データセンターとの通信による遅延が発生し、リアルタイム性が求められる処理には向いていない。そこで、ユーザにより近いエッジに小規模のデータセンターを置き、そこで様々な処理を行えるようにするマイクロデータセンターが提案されている。マイクロデータセンターは、大規模なデータセンターと比べて保有しているリソースの量は限られているため、柔軟なリソース管理による無駄のないリソースの使用が重要となる。これを実現するために、サーバ単位で構成されていたデータセンターを CPU やメモリ、ストレージのようなリソースごとに分解し、リソース単位で構成するリソース分離型のデータセンターの技術をマイクロデータセンターに用いることが考えられる。この技術の導入によって、リソース単位での最適化が行え、利用サービスごとのきめ細かいリソース配分や、リソース管理コストの低下が期待される。しかし、リソース分離型のデータセンターはリソース間でのやり取りをネットワークによって行うため、リソース間通信による遅延が発生し、性能が低下してしまう恐れがある。特に、メモリと CPU 間の通信による遅延は要件が厳しいため、性能の低下の直接的な原因となってしまう。

そこで、我々は、リモートメモリとの通信遅延による性能の低下を抑えられるような帯域幅やレイテンシを求め、実際にリソース分離型マイクロデータセンターを用いるにあたってのリソースの配置方法や分配方法について検討を行っている。具体的には、プログラムの実行時に性能低下の直接的な原因となるメモリと CPUの通信によるレイテンシ、帯域幅を変化させて、マイクロデータセンターで実行されうる画像認識等の処理を実行した。そして、それぞれメモリと CPU が分離されていないときと比べてどれだけ性能に影響があるかを測定し、性能低下を抑えられる最低限の帯域幅とレイテンシ、適切なリモートメモリの配分や配置についての考察を進めている。

[関連発表論文]

5.2. エッジコンピューティング技術のITSサービスへの応用

5.2.1. ポテンシャル場を用いた実世界表現に基づいたSDI仮想化基盤制御手法(1.1.3項再掲)

SDI (Software Defined Infrastructure) 環境では、物理的リソースであるコンピューティングリソースとネットワークリソースをスライス化して仮想ネットワークを構築し、その仮想ネットワークをサービススライスとしてユーザに提供する。SDI環境を実現する技術として、近年 SDN (Software-Defined Networks) と NFV (Network Function Virtualization) 技術が着目されている。市場導入に向けては、技術標準化が必須であり、現在も進められているところである。しかし、SDI環境の実現に向けたもう1つの課題は、ユーザの需要に応じて仮想ネットワークと物理的なリソースの割り当てを制御することである。特に最近は、センサーデバイスの小型化や低価格化とモバイルデバイスの普及にともない、現実世界の状況をセンシングして分析処理し新たなサービスを提供する実世界センシングが注目されており、ユーザの需要に応じて高速かつ柔軟にネットワークリソースを制御することが望まれる。

本研究では、SDI環境において、実世界変動に対応しリソース制約も考慮したリソース配置を、ポテンシャル場を用いた自己組織的な動作によって実現する動的リソース制御手法を考案し、計算機シミュレーションを用いて有効性を評価した。提案手法では、各エッジルータに発生する潜在的なリソース需要をポテンシャルとして表現する。エッジルータ間でポテンシャル値の情報交換による自己組織化と外部のコントローラを介したリソース競合の調停管理による管理型自己組織化を行い、ポテンシャル場を形成・更新する。エッジルータ上では複数のサービスが展開されるため、外部のコントローラは各サービスのリソース需要や時空間的特性に基づいて競合するリソースの調停を図る。評価では、交通実データを用いてポテンシャル場を形成および更新し、複数のサービス展開によるリソース競合に対する空間的リソース増強が行われることを明らかにした。また、管理型自己組織化による調停により、リソース不足となるエッジルータの割合が32%低減されることを示した。

各サービスの時空間的特性
管理型自己組織に基づくリソース制御
[関連発表論文]

5.2.2. エッジコンピューティング技術の高度化によるITSサービスに関する研究(KDDI総合研究所との共同研究)

エッジコンピューティングのユースの検討が国内外で進められている。その1つとして、車両や歩行者から局所的に得られる環境情報をデータセンターで収集・解析し、車両群へ安全性に関する情報をフィードバックすることで安全性を高めるITS(Intelligent Transport Systems)アプリケーションへの期待が高まっている。しかし、エッジサーバーのコンピューティングリソースは限られるため、例えば見通しの悪い交差点での車両衝突の検知などのITSアプリケーションにおいて、リアルタイム性を確保することが重要である。そこで本研究では、エッジサーバーでRTOS(Real-time Operating System)を動作させ、リアルタイム処理が求められるアプリケーションの応答遅延に対する効果を、実機を用いて明らかにする。まず、車両の衝突検知アルゴリズムを実装し、バックグラウンド負荷を高めた条件下でサーバの処理遅延の最悪値を測定した。その結果、非RTOSのFairスケジューリングの場合に14msであった処理遅延の最悪値が、RTOSのリアルタイムスケジューリングの場合に0.026msとなることがわかった。次に、研究室内にLTE通信システムを構築し、LTE使用したUDP通信により車両位置情報を送り衝突検知結果を受信する衝突検知アプリケーションの応答遅延を測定した。その結果、RTOSによりアプリケーションの応答遅延の最悪値が最大で30%削減されることが明らかとなった。

エッジコンピューティング実験環境
[関連発表論文]