5)新しいネットワーク理論の構築に関する研究

5.1)ネットワークにおけるフィードバックメカニズムの解明に関する研究

ネットワークの高速化,効率化の中心技術となるのが輻輳制御で ある.旧来の電話交換網における輻輳制御では,アーラン呼損式を核 とするトラヒック理論がその理論的な支柱となってきた.一方,イン ターネットに代表されるコンピュータネットワークにおいては,待ち 行列理論が古くから輻輳制御設計を解決するものとされてきた.しか しながら,インターネットにおいては,エンド間トランスポート層プ ロトコルであるTCPがネットワークの輻輳制御の役割も担っている. TCPは基本的にフィードバックメカニズムに基づくものであり,従来 の待ち行列理論に代表されるマルコフ理論が意味をなさないのは自明 である.本研究テーマでは,そのような考え方に基づき,ネットワー クの輻輳制御の解明を目指した研究を進めている.

5.1.1) 制御理論にもとづくリアルタイム系および非リアルタイ ム系輻輳制御の混在環境の解析(大阪大学大学院情報科学研究科今瀬 研究室との共同研究)

近年,インターネットの高速化に伴い,動画像のストリーミング 転送に代表されるような,リアルタイム系のアプリケーションが急速 に普及しつつある.リアルタイム系のアプリケーションは,トランス ポート層プロトコルとして,UDP (User Datagram Protocol)または TCP (Transmission Control Protocol)のどちらかを用いる.インター ネットは,複数の利用者がネットワーク帯域を共有する,ベストエ フォート型のネットワークである.このため,すべてのネットワーク アプリケーションは,ネットワークの輻輳状況に適応する機構が必要 となる.

現在のインターネットでは,大部分のトラヒックがTCP (Transmission Control Protocol)によって転送されている.TCPは送 信側ホスト!A受信側ホスト間で輻輳制御を行い,ネットワークの利用 可能帯域にあわせてパケットの送出量を調整する機構を有している. しかし,TCPの輻輳制御機構は,AIMD(Additive Increase Multiplicative Decrease)型のウィンドウフロー制御であるため,ラ ウンドトリップ時間程度のタイムスケールで,送信側ホストからのパ ケット送出レートが変動してしまう.これは,TCPをデータ転送など 非リアルタイム系のアプリケーションで用いる場合には問題とならな いが,動画像のストリーミング転送のような,リアルタイム系のアプ リケーションでは大きな問題となる.そこで,リアルタイム系のアプ リケーションが用いる輻輳制御として,TCPとの公平性を実現するこ とを目指したレート制御方式であるTFRC (TCP-Friendly Rate Control)が注目されている.

これまで,リアルタイム系輻輳制御であるTFRCと,非リアルタイ ム系輻輳制御であるTCPが混在した環境における,それぞれの輻輳制 御の特性解析は進められている.しかし,これらの研究の大部分はシ ミュレーション実験をもとにしており,TFRCとTCPが混在する環境に おける,定常特性や過渡特性の解析はまったく行なわれていない.そ こで本研究では,TFRCコネクションおよびTCPコネクションが単一の ボトルネックリンクを共有するというネットワークにおける,TFRCお よびTCPの定常特性および過渡特性を解析した.まず,TFRCコネクショ ンおよびTCPコネクションのラウンドトリップ時間が一定のもとで, TFRCコネクション,TCPコネクション,REDルータを,それぞれ離散時 間システムとしてモデル化した.その後,ここで得られた離散時間モ デルを利用して,定常状態におけるTCPコネクションのスループット, TFRCコネクションの送信レート,REDルータの平均キュー長,REDルー タにおけるパケット棄却率を導出する.さらに,離散時間モデルを平 衡点の近傍で線形化し,平衡点の近傍におけるTCPコネクションおよ びTFRCコネクションの過渡特性を解析した.その結果,例えば,TFRC はTCPコネクションとの公平性を実現することを目指して設計されて いるが,定常状態において,TFRCコネクションのスループットは, TCPコネクションのスループットよりも大きな値となることを定量的 に示した.また,TCPのコネクション数もしくはTFRCのコネクション 数が増加するにつれ,もしくはボトルネックリンクの容量が増加する につれ,TFRCおよびTCPの過渡特性が劣化する(逆に,安定性が向上す る)ことなどがわかった.

[関連発表論文]

5.2) べき乗則に従うトポロジーを有するネットワークの特性の解明に関する研究

これまでのべき乗則に従うネットワークに関する研究においては, 現実のインターネットにおける特性に着目した研究は行われていない. 例えば,べき乗則に従うトポロジー形成を説明するものとして Barabasi-Albert (BA)モデルがあるが,これはネットワークの成長, および,新規リンクの優先的接続(Preferential Attachment)によっ てトポロジーモデルを構築するものであり,例えば,WWWシステムの リンクの接続関係もBAモデルではうまく説明されている.しかし,イ ンターネットにおいては,単にリンク接続数の確率分布を考えた議論 のみでは不十分であり,以下を考慮していく必要がある.すなわち, 現実のインターネットにおいては,ネットワーク設計者の介在により, ネットワークの中心部(コアネットワーク)には大容量のノードやリ ンクが存在し,一方,エッジ部には,アクセスネットワークとして大 量の低速回線を収容するようなノードが多く存在し,結合分布のみで ネットワークのトポロジー特性が決まるわけではない.そのため,べ き乗則に従うインターネットに適したトラヒック制御方式,および, ネットワーク設計論を確立することが必要になる.べき乗則に従うネッ トワークに関する研究は,多くの学問分野に跨って取り扱われており, まずはそれらの内,インターネットにおいても有効であるもの,そう でないものの取捨選択を行い,その上でインターネットにおけるトラ ヒック制御方式やネットワーク設計手法を考えていく必要がある.す なわち,テーマはトラヒック制御法やネットワーク設計に関するイン ターネットにおける新しい基礎理論の創出を目指したものである.

5.2.1) オーバーレイネットワーク共生環境の構築

2.3.3参照

5.2.2) べき乗則に従うネットワークにおける経路制御情報のフラッディング手法に関する研究

4.2.1参照

5.2.3) べき乗則に従うネットワークにおける経路制御手法に関 する研究(大阪大学大学院工学研究科滝根研究室との共同研究)

4.2.2参照