6) 生物の頑強性,自律性に着想を得た情報ネットワークアーキテクチャの構築に関する研究

本研究テーマは,近年のインターネットの飛躍的な発展に伴って顕著 になりつつある諸問題を,生物学の研究において得られた知見をもとに解 決し,ネットワーク分野の新たなブレークスルーを切り拓くことを目的と している.そのために,以下の3段階に亘る課題を設定することによって, 研究を早期に立ち上げるとともに,将来のネットワークのあり方に対する 展望を視野に入れた研究を進めています.

[関連発表論文]

6.1) 新しく発展しつつあるネットワークのための通信技術の確立

最近急速に発展しつつあるP2P (Peer-to-Peer)ネットワーク,アドホッ クネットワーク,センサーネットワークにおいては,さまざまな個別要素 技術の確立が急務になっている.後述するように,これらのネットワーク においては,拡張性や自律性,適応性などの特性が求められており,これ らは生物システムの持つ頑強性,適応性,自律性(自己組織化)などによっ て解決できる可能性が大きい.ただし,それらがネットワークの問題をす べて解決するとは到底考えられず,何が役立ち,何が問題となるか,何が 足りないかといった点を明らかにすることも本課題の重要な目的である.

具体的な第1フェーズの目標は,生物に学ぶネットワーク制御を新しい ネットワークに対して適用し,個別要素技術の確立を図ることである.対 象としているものは,P2Pネットワークにおける資源発見機構やキャッシ ング機構,アドホックネットワークにおける輻輳制御や経路制御,センサー ネットワークにおける電力制御や経路制御,クラスタリング手法などであ る.これらによって,生物システムの頑強性,適応性,自律性や自己組織 化手法に学びつつ,新たなネットワーク制御を実現していく.生物界の挙 動を情報システムに持ち込んだ例としては過去にも遺伝子アルゴリズム (Genetic Algorithm) やACO (Ant Colony Optimization)などがあるが, これらはそれぞれ,遺伝子をモデル化したり,ありの生態を模すことによっ て最適化問題を解くというものであり,上に示した本テーマの目標とは根 本的に異なるものである.

なお,本テーマにおいては,生物の様態や挙動を数理モデルとして扱 われているものをネットワーク制御に持ち込んでいる.これがないと,現 象や制御の説明を生物に例えて説明するだけの単なるアナロジーに過ぎな いものになる.数理モデルを扱うことにより,その安定性やパラメータ感 度に関する数学的な議論も可能となり,その意味は大きいと考える.

以下にも示すように,本テーマにおけるこれまでの研究成果において は,「群行動によるインテリジェンス」,すなわち,間接的なインタラク ションによって全体の制御を実現したり,あるいは環境を介した通信によっ て全体の制御を実現するものであり,複雑系で議論されるところの「要素 の寄せ集めではなく,パーツの集合体以上の振る舞い」を期待できるもの である.

6.1.1) スケーラブルなP2Pメディアストリーミング機構の確立

1.1.1参照

6.1.2) センサーネットワークにおけるセンサ情報収集のためのクラスタリング

2.1.1参照

6.1.3) 同期型センサ情報収集機構の確立

2.1.2参照

6.1.4) アドホックネットワークのためのスケーラブルでロバストな 経路制御手法に関する研究(大阪大学大学院情報科学研究科今瀬研究室と の共同研究)

2.2.1参照

6.2) 既存ネットワークアーキテクチャの見直し

アプリケーション層を含めたインターネットの各層における制御の見 直しの必要性が,最近活発に議論されている.特に,ネットワークの巨大 化に伴う諸問題は,上記第1フェーズの知見に基づいて解決できる可能性 が大きいと考えられる.また,特にP2P ネットワークやアドホックネット ワークなどにおける資源発見機構は,既存ネットワーク技術を変革する可 能性が大きいと考えられ,それを考慮しつつ各層制御について見直しを図っ ていく.具体的な目標は,ワイヤレスモバイル環境を含めた現状のインター ネットの各層における制御はこのままでよいのかという根源的な問いに対 する解答を得ることである.

6.2.1) 生物の増殖モデルに基づくTCPの輻輳制御方式

3.3.3参照

6.3) 適応複雑系としてのネットワークにおける制御技術の確立

上記第2フェーズにおけるネットワークアーキテクチャの見直しを進め ていき,適応性に富むネットワークの構築を行えば,必然的に適応複雑系 としてのインターネットに行き着くことが予測でき,第2フェーズで得ら れた研究成果に基づいた制御技術の確立が本課題の最終的なゴールとなる.

適応複雑系としてのインターネットにおける頑強性や安定性の確保は 適応複雑系を特徴付けるものとして以下が挙げられる.また,ネットワー クにおいて相当するものを同時に示す.

  1. (フィードバック)制御:TCPそのもの,各階層におけるフィードバック制御
  2. 冗長性:IPの経路制御
  3. モジュール化:プロトコルの階層化,ノードやエンドホストの自律的制御
  4. 構造安定:AS単位の階層化,センサーネットワークやアドホックネットワークの自己組織的クラスタリング

すなわち,ネットワークの構造自体が適応複雑系をなしているといっ ても過言ではない.特に最近では,ネットワークにおいてもパワー則が数 多く発見されており,このような現象の原因を解明できれば,耐故障性と 最適性や最適解への収束速度との関係が明らかにできるであろう.さらに, 前章で述べた共生ネットワーク環境は,共生機構を階層化することによっ て適応複雑系の様相を呈するであろうことは,テーマ1の研究によって徐々 に明らかになっている.特に重要な点は,インターネットは他の複雑系と 異なり,制御可能であるという点である.すなわち,インターネット自体 が複雑系に関する巨大な実験場と見ることもでき,本研究テーマで得られ た知見を他の複雑系に関する研究にフィードバックすることも将来的には 可能であると考えている.

6.3.1) オーバーレイネットワーク共生環境の構築

2.3.3参照

6.3.2) 大規模フォトニックネットワークにおける棄却性能評価および改善に関する研究

3.2.5参照

6.3.3) べき乗則に従うネットワークにおける経路制御情報のフラッディング手法に関する研究

4.2.1参照

6.3.4) べき乗則に従うネットワークにおける経路制御手法に関する研究 (大阪大学大学院工学研究科滝根研究室との共同研究)

4.2.2参照