5. ネットワーク仮想化技術に関する研究

5.1. 生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究

Network Function Virtualization (NFV) やマッシュアップWebサービスなどのネットワークシステムにおいては、実行環境の構成要素である汎用サーバ上に複数のサービスや機能を配置し、実行する。その分散配置されたサーバに、どのサービスや機能を配置するか、及び配置された各サービスや機能にどう資源を割り当て実行するかを各サーバで自律的に決定することは、物理的に広い範囲のネットワーク環境や、サーバ障害や環境変動の発生時においても、システムの冗長性や成長性を保ちながらシステム全体を制御できる。また、遺伝子ネットワークや化学反応等の生化学における特性である自己組織性や堅牢性を情報ネットワークアーキテクチャへ応用する検討が活発に行われている。

そこで本研究では、化学反応式を利用した空間拡散モデルに基づいて、上記のようなネットワークサービスにおいて、提供するサービスや機能を適切な場所で実行し、サーバ資源をそれらで効率よく共有する手法を提案する。提案手法では、サービスや機能を実行するサーバを個々のタプル空間とみなし、ユーザからのリクエスト量やサービスの需要量等を化学物質として考え、サーバ内の局所的な状況を化学物質の濃度変化や拡散によって表現する。そして、その空間で、各サービスに対するリクエストを、サーバ資源を用いて処理する反応式を定義し、それを実行することにより、サービスの需要に応じたサーバ資源の共有をシステム内の各デバイスの自律的な動作によって実現する。シミュレーション評価により、提案システムが仮想化ネットワークシステムに求められる様々な機能を実現できることを確認した。

また、提案システムをNetwork Function Virtualization (NFV)を実現するために適用することを考え、NFVにおけるサービチェイニング、Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置、フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し、その有効性を確認した。また、単純なVNF配置方式と比較し、フローの処理にかかる遅延時間を77%削減できることを確認した。

[関連発表論文]

5.2. 生物のゆらぎ原理にもとづくSDI仮想化基盤制御手法に関する研究(富士通研究所との共同研究)

SDI (Software Defined Infrastructure) 環境では、物理的リソースであるコンピューティングリソースとネットワークリソースをスライス化して仮想ネットワークを構築し、その仮想ネットワークをユーザに提供する。SDI環境を実現する技術として、近年 SDN (Software-Defined Networks) と NFV (Network Function Virtualization) 技術が着目されている。市場導入に向けては、技術標準化が必須であり、現在も進められているところである。しかし、SDI環境の実現に向けたもう1つの課題は、ユーザの需要に応じて仮想ネットワークと物理的なリソースの割り当てを制御することである。本研究では、制御目標の汎用性を備え、かつ、多重スライス構成に対応可能なVNE手法として、ゆらぎ原理にもとづくVNE手法を提案している。光ネットワーク上の仮想ネットワーク制御とは異なり、SDI 環境における仮想ネットワーク制御では、回線容量やルータの処理能力制約に加え、物理サーバおよび物理サーバ上に構築される仮想マシンのリソース要件を制約に加える必要がある。そこで本研究では、ゆらぎ原理にもとづくVNT制御手法を拡張し、SDI環境における仮想ネットワーク制御手法であるVNE手法を提案している。計算機シミュレーションによる評価により、提案手法におけるVNEの移行回数が、既存の発見的手法と比較して、約45%削減されることが明らかとなった。

[関連発表論文]

5.3. 生物の進化適応性にもとづく仮想ネットワークの構築手法

通信ネットワークへの接続者数の増加に伴い、通信サービスが多様かつ動的なものとなっている。この状況に対処する方策として、ネットワーク機能の構成を動的に変更可能にする仮想化技術である Network Function Virtualization(NFV)技術が広く注目を集めている。ユーザの動的な処理要求変更に対応するためには、VNFをどのように配置するのかを、時々刻々と変化するネットワークに適応できるように、動的に解く必要がある。このような動的VNF配置問題においては、配置状態を各要求に対して適したものとすることに加え、処理要求変化後のVM再構成操作などの、動的配置に必要なコストを抑制する必要がある。本研究では生物進化の知見を利用することでこの問題を解決した。生物は、環境変動の中で進化する中で、各目標へ遺伝的に適応し、最終的に少しの構造変更で目標変動に適応できる構造を獲得する。環境変動に対する生物の進化適応の概念を導入した遺伝的アルゴリズムである、EVGやMVGを動的VNF配置問題に適用することにより、ユーザのトラフィック経路上で生じる遅延を小さく維持しながら、ユーザ処理要求の変更後に必要な配置再構成操作回数を抑制した。

[関連発表論文]