フォトニックネットワークアーキテクチャに関する研究

近年の光伝送技術の発展には目覚しいものがあり、WDM(波長分割多重)技術によってネットワークの回線容量は爆発的に増大してきた。しかし、光伝送技術とネットワーキング技術はおのおの別個の歴史を持ち、インターネットに適した光通信技術の適用形態については明らかになっていないのが現状である。短期的には、高性能・高信頼光パスネットワークがその中心技術になると考えられ、その点に着目した研究を行っている。

フォトニックインターネットにおける論理トポロジー設計手法に関する研究

次世代インターネットの基盤ネットワークとして、WDM技術に基づいたIP over WDMネットワークが有望視されている。このようなIP over WDMネットワークのアーキテクチャの一つとして物理トポロジー上に光パスを設定することで論理トポロジーを構築し、その上でIPパケットを転送するアーキテクチャが考えられている。従来の論理トポロジー設計手法では、光ファイバで多重される波長数は一定であるとしていた。しかし、波長の多重数が大きい場合には、光ファイバに光ファイバ増幅器を導入しておく必要がある。IP over WDMネットワークを対象とし、光ファイバに導入される光ファイバ増幅器を考慮した、発見的手法に基づく論理トポロジー設計手法を提案している。提案アルゴリズムを論理トポロジー上での平均遅延時間、スループットおよび必要となる光ファイバ増幅器の数を比較し、設計された論理トポロジーに必要となる光ファイバ増幅器の数が減少することを示した。また、波長の多重数と1波長当たりの伝送帯域の積が一定であるとした上で、波長の多重数の違いがネットワークの性能におよぼす影響を明らかにし、その結果、波長の多重数を上げると収容可能なトラヒック量が増加することがわかった。

[関連発表論文]

フォトニックインターネットにおける高信頼化に関する研究

WDM技術によってネットワークの伝送容量が増大するにともなって、ネットワーク機器において障害が発生した時のデータ損失量も大きくなる。そのため、障害からの復旧手法としてWDM層でのプロテクション方式が考えられている。プロテクション方式では障害発生時にあらかじめ決められたバックアップパス上にトラヒックを流して障害復旧を行う。しかし、従来のプロテクション方式に関する研究では、信頼性に関する品質(QoR: Quality of Reliability)に関する研究はほとんど行われていない。本研究では、障害発生時からバックアップパスへ切り替わるまでの時間、すなわち、障害復旧に必要となる時間をQoRとして規定した。さらに、QoRの要求を考慮した論理トポロジー設計手法を提案し、提案手法を用いた場合に必要となる波長数を明らかにした。

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フォトニックインターネットにおける設備設計に関する研究 (独立行政法人通信総合研究所との共同研究)

従来提案されてきたWDMネットワークの物理トポロジー設計手法では、将来発生するトラヒック量は既知と仮定して低コストのネットワークを構築している。しかし、実際には、トラヒック量を正確に予測することは困難である。本研究では、将来要求されるトラヒック量が不確定な状況で、収容可能なトラヒック量を最大にするWDMネットワークの設備設計手法を提案している。提案手法では、将来のトラヒック変動を推定し、推定したトラヒックを収容するために必要となるネットワーク設備を配置する。OXCおよび光ファイバを設計する設備の対象とし、ネットワーク設備設計問題をOXC配置問題とファイバ配置問題の部分問題に分けて解いている。提案手法により設計されたネットワークと冗長設計により設計されたネットワークを比較した結果、提案手法により設計したネットワークはすべての光パス設定要求を収容することができたのに対して、同じ数のOXCを導入した冗長設計により設計したネットワークでは二割程度の光パスが収容できないことを明らかにしている。

[関連発表論文]

フォトニックネットワークにおける段階的設計手法に関する研究

これまでの多くの研究では、トラヒック量が既知であるという仮定に基づいた論理トポロジー設計が行われてきた。しかし、インターネットへの適用を考えた場合、そのような仮定は非現実的である。本研究では、IP over WDMネットワークにおいて信頼性を高めつつ、動的に変動するトラヒック要求に対応するために、プライマリ/バックアップ光パスを設定するためのアルゴリズムMRB (Minimum Reconfiguring for Backup lightpaths)を提案している。また、バックアップ光パスは障害発生時にのみ使用されるため、変動するトラヒックを収容するためにバックアップ光パスの再構成することで、より多くのプライマリ光パスを効率的に収容するための最適化問題の定式化を行っている。シミュレーションによって、提案方式の有効性を検証しており、その結果、提案手法がより多くのトラヒックを収容できることを示している。

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超高速光パス設定に関する研究 (大阪大学大学院工学研究科北山研究室との共同研究)

WDM技術を適用したデータ通信方式として、データ発生時に高速に波長を割り当て、データ転送を行う方式が考えられる。この方式は、データ発生時に送受信間に光パスを設定するため、効率的なデータ転送が可能となる。ただし、パス設定が完了してデータ転送が開始するまでの時間によって性能が大きく変わるため、パス設定時間の高速化が必要である。本研究では、波長割当時のオーバーヘッドを極限まで減らすことを目的として、光符号処理を利用したデータ転送方式を提案している。計算機シミュレーションの結果、光符号処理によって高速にバースト転送が可能となると同時に、ブロック率も減少することがわかった。

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分散型光パス設定方式における経路選択方式に関する研究

WDM技術の利用形態として、データ発生時にオンデマンドで送受信ノード間に波長のチャネル(光パス)を設定し、光パス設定後にデータの転送を行う方式が考えられている。光パスを設定に関する今までの研究では、アルゴリズムを適用する時点ではネットワーク内の波長の利用状況が正確に把握できるという前提で経路選択アルゴリズムを適用していた。実際には、経路選択アルゴリズムで用いる波長の利用状況に関する情報は、少なくともリンクの伝搬遅延時間だけ遅れて各ノードに到着し、その結果、波長の利用状況の正確さが失われる可能性がある。本研究では、分散環境における動的光パス設定方式を対象とし、リンクの伝搬遅延時間が経路選択アルゴリズムにおよぼす影響を明らかにしている。シミュレーションによる評価の結果、光パスの平均保持時間に対してリンクの伝搬遅延時間が大きい場合には、最小負荷経路選択手法では性能が低下することがわかった。到着率が低い場合には、複数の経路候補から経路を選択する方式による性能向上はほとんど見られず、伝搬遅延時間が最小となる経路を固定で与える方式がわずかに良い性能を示すことがわかった。

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フォトニックグリッド環境における分散計算のためのメモリアクセス手法に関する研究

WDM技術を基盤としてインターネットの高速化を図る、いわゆるIP over WDMネットワークの研究開発が、現在さかんに進められている。また、それを一歩進めてWDM技術以外のさまざまなフォトニック技術を下位レイヤの通信技術としたGMPLSと呼ばれるインターネットのルーティング技術の標準化もIETFで進められている。さらに、フォトニックネットワークの真のIP化を狙って、フォトニック技術に基づいたフォトニックパケットスイッチに関する研究も始められつつある。しかしながら、これらの諸技術は現在のインターネット技術を是としている。すなわち、情報を扱う細粒度としてIPパケットを扱い、ネットワーク上でそれをいかに高速に運ぶかを研究開発の目標としている。そのため、パケット交換技術に基づいたアーキテクチャをとる限り、個々のコネクションに対する高品質通信の実現は非常に難しい。 SANやグリッド計算など新しい応用技術では、高速かつ、高信頼な通信パイプをエンドユーザに提供する必要があり、そのためには、エンドユーザ間に大容量波長パスを設定し、ユーザに提供することが考えられる。すなわち、既設のファイバを利用し、あるいは必要に応じて、ファイバを新たに敷設し、ファイバおよびファイバ内に多重化された波長を最小粒度として情報の交換を行うフォトニックネットワークを構築することによって、超高速かつ高品質な通信パイプをエンドユーザに提供することが可能である。そこで、ネットワークノードや計算機群を光ファイバで接続したフォトニックグリッド上に仮想チャネルをメッシュ状に張ることにより、高速チャネル上での分散計算が可能になる。さらには、フォトニックグリッド上に仮想リングを構成し、リング上にデータを載せることによって、波長を仮想的な共有メモリとすることも可能である。その結果、広域分散システムにおける共有メモリと通信チャネルの区別の必要がなくなり、コンピュータ間の高速なデータ交換が可能になると考えられる。

本研究では、フォトニックグリッド上に仮想リングを構成した際の共有メモリアクセス方式を提案した。共有メモリとして光リングを構成する場合、従来の共有メモリシステム同様に、共有メモリに対する競合とキャッシュの整合性の問題が生じる。また、長距離ファイバ上に展開する仮想光リングへはアクセスのタイミングや頻度に制約がある。そのため、そのことを十分に考慮したアクセス方式を考え、シミュレーションを用いてその性能を評価した。その結果、広域に分散した計算機群で仮想光リングを用いてデータの共有をはかる場合、メモリアクセスの遅延の影響が大きいことから、制御メッセージの交換の少ない方式が非常に有効であることがわかった。

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