6. 次世代インターネットアーキテクチャに関する研究

6.1. 次世代トランスポートプロトコルに関する研究

6.1.1. TCPの動作を考慮した無線LANの消費電力低減効果

IEEE 802.11無線LANにおいては、無線通信が消費する電力が全体の10%から50%を占めることが報告されており、無線通信の消費電力を削減することが機器全体の消費電力を削減するうえで重要である。無線LANにおける省電力化に関する検討は、主にハードウェアレベルおよびMACプロトコルレベルの双方から行われている。一般に、ネットワーク機器の省電力に関して議論を行う場合においては、省電力効果とネットワーク性能間のトレードオフを考慮する必要がある。すなわち、消費電力の削減に効果のある要因を明らかにし、その要因がどの程度ネットワーク性能を低下させるかを知ることが重要である。しかし、TCPなどのトランスポート層プロトコルの挙動が省電力性能に与える影響を考慮したデータ転送手法に関する研究はほとんど行われていない。

そこで本研究では、無線LAN 環境におけるTCPデータ転送の省電力化を行うためにSCTPトンネリングを提案した。SCTPトンネリングは、複数のTCPフローを無線端末とアクセスポイント間に確立した1本のSCTPアソシエーションに集約する。そして、SCTPトンネリングは集約されたTCPフローのパケットをバースト的に転送することによって状態遷移回数を削減し、スリープによる省電力効果を高める。また、提案方式の省電力効果を評価するために、SCTPトンネリングの消費電力モデルを構築する。その消費電力モデルに基づいた消費電力解析により、提案方式が消費電力を最大70%程度削減できることを示した。また、実機実験によってもその有効性を検証し、標準化されている省電力手法を単独で用いた場合と同程度の省電力効果を保ちながら、ファイル転送時間を短く抑えることができることを示した。

[関連発表論文]

6.2. 次世代ルーティングアーキテクチャに関する研究

6.2.1. IPv6の利用促進手法(日本電気株式会社との共同研究)

IPv4 アドレスの新規割り当てが2012年に終了し、アドレス枯渇問題がいよいよ現実的となった現在、IPv6 ネットワークへの速やかな移行が求められている。しかしながら IPv6 移行に際しては、従来の IPv4 からの変化に伴う課題について検討していく必要がある。その一つがアドレス長の変化による影響である。IPv6アドレスは128bitもあり長いために人間がその値を記憶するのは困難である。それに加え自動で生成設定されるアドレスは人間には規則性のない数字の羅列と感じられ、数字表記のIPv6アドレス情報は、IPv4アドレスとは異なり、実質的にほとんど覚えることができない。アプリケーションの引数として人がアドレスをタイプするのも大変煩雑である。別の視点として、IPv6アドレス情報が人に通信状態を伝えるために提示された場合、そのアドレスが実際にどのノードに設定されたものかを人間が理解できないとその情報は役に立たない。覚えることができない あるいは一目で(他のアドレスと同一かどうかなど)見分けることができない 数字表記のIPv6アドレス情報は、結果として実質的にほとんど意味のない情報になってしまっている。また、IPv6では1ノード(インターフェース)に対して複数のアドレス(リンクローカルアドレスに加えグローバルアドレス)を設定するのが一般的であり、アドレスが実際にどのノードに設定されているものかを人が識別するのを一層難しくしている。

本研究では上記の問題を統合的に解決すべく設計実装したAuto Nameと呼ぶ機能について提案を行っている。全てのIPv6 アドレスに対応するAuto Nameと呼ぶネームを自動で生成登録し、これを利用することで上記の問題を解決している。同じノード(インターフェース)に設定された複数のアドレスに対しては同じAuto Name Prefixを用いることでグループ化し、アドレスが実際にどのノードに設定されているのかを分かり易く示すことにも貢献している。Auto Nameは固定長文字列であるため、アドレス表示の際に桁が揃い見やすくなるなどの副次的な効果もある。本研究では Auto Name 機能の設計、実装および評価により、よりエンドユーザが簡便に IPv6 アドレスを取り扱うことができることを明らかにした。

[関連発表論文]