4. 次世代データセンターネットワークアーキテクチャに関する研究

4.1. データセンターの高性能化に関する研究

4.1.1. マルチテナント型データセンターにおける仮想ネットワーク配置に関する研究

マルチテナント型データセンターでは、基盤となる物理ネットワークが備える性能を余すことなくテナントに配分し、かつ、物理ネットワークの障害がテナントに与える影響を抑えるため、テナントを構成する仮想ネットワークを物理ネットワーク上に適切に配置することが必要になる。本報告では、仮想ネットワークの性能と可用性の向上を目的に、まず、仮想ネットワークが得る利用可能帯域と障害により失う帯域の差分を有効帯域と定義し、仮想ネットワークの配置問題を定式化する。次に、障害復旧手続きを規定した上で、仮想ネットワークの集約状態に応じて、物理ネットワークの障害時における仮想ネットワークの障害復旧時間が変化するモデルを提案する。最後に、計算機シミュレーションを行い、有効帯域を最大化する仮想ネットワークの配置は、物理ネットワークの帯域を使い切り、かつ、障害による停止時間を、利用可能帯域を最大化する配置に比べ1/3 程度に低減できることを示した。

[関連発表論文]

4.1.2. ハイブリッドクラウドシステムの性能評価に関する研究

広域ネットワークの広帯域化を背景に、オンプレミス型プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせてアプリケーションシステムを構成するハイブリッドクラウドが普及しつつある。特に、計算リソースを定常的にプライベートデータセンタに配備し、リソース不足時にパブリックデータセンタへスケールアウトを行う方式をクラウドバースティングと呼ぶ。このクラウドバースティングにおいては、プライベートとパブリックの各データセンター間の負荷分散を適切に行うことで、サービスレベルを守りつつ全体コストを最小化することが求められる。

そこで本研究では、アプリケーションへのリクエストトラヒック量を予測し、応答制約を満たす最小の計算リソースを、逐次、各データセンターに配備することにより、応答性能を保ちつつ全体コストを低減させることが可能になると考え、ハイブリッドクラウドの全体コストモデルを提案し、実観測データを利用してARIMA モデルによるリクエストトラヒック予測を行い、評価を行った。その結果、プライベートデータセンタのみの処理に比較してハイブリッドクラウドでは全体コストが約1/2 に低減できることを示す。さらに、応答制約を満たさないタイムスロットの割合と全体コストはトレードオフの関係にあることを示した。

[関連発表論文]

4.1.3. 耐故障性を有する分散型クラウドストレージの配置方法に関する研究

クラウドストレージは、様々な場面で使われるようになり、重要なデータもクラウドストレージ上に配置されるようになってきた。その結果、データの可用性が重要となり、クラウドストレージの提供者はシステムの一部が故障しても、ユーザがファイルのアップロードやダウンロードを可能とする必要がある。本研究では、このような故障がおきた際にも、サービスを維持できるような分散型クラウドストレージシステムを提案した。分散型クラウドストレージでは、各データチャンクの複数のレプリカを地理的に異なる複数の仮想ストレージに配置する。その結果、もし、一つの仮想ストレージが利用不可となった場合であっても、ユーザは他の仮想ストレージからデータをダウンロードすることが可能となる。本システムにおいては、仮想ストレージの配置が重要である。もし、単一故障により、複数の仮想ストレージがアクセス不可となる可能性があれば、多数のレプリカを配置しておかなければ、データの可用性を維持できない。多数のレプリカを維持するためには、仮想ストレージ間で多量の通信を行うことが必要となり、ネットワークに負荷をかける。本研究では、少数のレプリカの配置で可用性を保証できるような仮想ストレージの配置方法を提案した。そして、評価により、提案手法を用いることで、故障時の可用性を考慮せずに仮想ストレージの位置を決める手法と比べ、可用性を維持するのに必要な仮想ストレージ間の通信量を60%まで削減できることを示した。

[関連発表論文]

4.2. 光電子融合型パケットルータを用いたデータセンターネットワークに関する研究

4.2.1. 光電子融合型パケットルータを用いたデータセンターネットワークの構成法

近年建築が進められている大規模データセンターでは、数千台から数万台の多数のサーバが配置され、サーバ間で連携をとることにより、データの処理が行われている。データセンターで効率的な処理を行うためには、サーバ間に十分な通信帯域を確保する必要がある。そのため、サーバ間に十分な帯域を確保することができるようなトポロジー構造の検討がこれまでも行われていた。しかしながら、従来の電気パケットスイッチを用いた構成では、十分な帯域を確保するためには、消費電力が大きくなってしまう。消費電力を低く抑えつつ、十分な帯域のネットワークを構成する方法として、光電子融合型パケットルータの開発が進められている。光電子融合型パケットルータは、光ポート間に低消費電力で広帯域の通信を収容できる。加えて、光電子融合型パケットルータは、電気ポートも保持しており、サーバラックと直接接続できる。本研究では、光ポート間に広帯域な通信を収容できるという点と、サーバラックから光電子融合型パケットルータに直接接続可能であるという利点を生かし、光電子融合型パケットルータを用いたデータセンターネットワークの構成方法を提案した。本構成方法では、各サーバラックから複数の光電子融合型パケットルータに接続する。そして、サーバラック・光電子融合型パケットルータ間の接続構成を考慮した上で、サーバラック間のホップ数を短くしつつ、広帯域な通信経路が確保できるように、光電子融合型パケットルータ間の接続を決定する。シミュレーション評価により、提案した手法により構築されたデータセンターネットワークが、同数のルータを用いたTorus型やFatTree型といった従来のデータセンターネットワークよりも多くのトラヒックを低遅延で収容できることを示した。

[関連発表論文]

4.2.2. 光電子融合型パケットルータを用いたデータセンターを対象とした、低消費電力化のための経路制御手法

データセンター内では複数のサーバが連携して一つの大きな処理を行なっており、データセンターの処理性能を確保するためには、広帯域・低遅延でサーバ間を接続するネットワークが必要となる。その一方、ネットワークがデータセンター全体に占める消費電力の割合は小さくなく、データセンターの消費電力を削減するためには、サーバや空調の低消費電力化のみではなく、ネットワーク低消費電力化も必須である。これらの問題を解決する機器として、光電子融合型パケットルータの開発が進められている。光電子融合型パケットルータでは、光スイッチと電気のバッファを持つ機器であり、パケットの衝突等が発生しない場合は、光・電気の変換を行わずに、高速かつ低消費電力な通信が可能となる。また、必要に応じて電気バッファを用いることにより、集中的なパケット送信スケジューリングを行うことなく、パケットロス率を十分低く抑えることができる。

光電子融合型パケットルータを用いて構築されたデータセンターネットワークでは、必要な箇所のみバッファの電源を投入することにより、通信性能を劣化させることなく低消費電力化ができると期待できる。そこで、本研究では、バッファの電源の切断による省電力化も考慮に入れた、低消費電力で十分な通信帯域を確保するための経路制御手法を提案した。

評価の結果、遅延最小化を目的とした手法と比較して、提案手法が遅延に関する性能要件を満たした上で消費電力を34% 程度削減可能なことが分かった。

[関連発表論文]

4.2.3. 大規模な仮想データセンターネットワークを構成する手法に関する研究

大規模なデータセンターでは、サーバの故障による離脱や、新たなサーバの追加といった環境変動が頻繁に発生し、それらの環境変動への対応を少ないメッセージ交換で可能とするデータセンターネットワークが必要とされている。本研究では、仮想化されたデータセンターネットワークにおいて、仮想クラスターを導入することにより、大規模ネットワークにおいて、環境変動への対応を少ないメッセージ交換により瞬時に行うことができる手法を提案した。本提案では、同一のアプリケーションに関係する仮想マシンなど、頻繁に通信を行う仮想マシンを一つの仮想クラスターにまとめる。また、各仮想クラスターには、仮想ネットワーク内の複数のスイッチを割り当てる。各仮想クラスターに割り当てられたスイッチは、Abstraction layerと呼ばれる層を形成する。クラスター内の通信は、Abstraction layer内のスイッチを介して行われ、他クラスターへの通信は、Abstraction layerのスイッチを介して、他のクラスターに対応するスイッチへ送られる。Abstraction layerを構成することにより、各仮想クラスター内のサーバの追加・離脱といった環境変動は、対応するAbstraction layer内のスイッチの設定変更のみで対応が可能となるため、大規模なデータセンターにおいても、メッセージ交換を増大させることなく処理可能となる。

本研究では、シミュレーション評価により、仮想クラスターを構成することにより、サーバ故障時の対応に必要なメッセージ交換を少なく抑えることができることを明らかにした。

[関連発表論文]

4.2.4. 光電子融合型パケットルータを用いたネットワークにおける仮想ネットワーク機能配置に関する検討

ネットワーク機能を仮想化する技術に関する研究が進められている。仮想化されたネットワーク機能(VNF)は、当該機能を実行するのに十分な資源のある機器であれば、いずれの機器で動作させることも可能となる。そのため、状況に応じて、ネットワーク機能を配置する位置を変更するといった柔軟な制御が可能となる。

本研究では、光電子融合型パケットルータを用いたネットワーク上に、VNFを配置する問題について議論を行った。従来、VNFはサーバで動作をさせることを前提として議論が行われてきた。しかしながら、サーバの計算能力を必要としない機能であれば、サーバ以外に当該機能を持たせることも可能である。特に、光電子融合型パケットルータを用いたネットワークでは、光電子融合型パケットルータにおいて光パケットのまま処理ができる機能を光電子融合型パケットルータに配置することにより、光パケット・電気パケットの変換回数を削減することができ、低遅延な機能の収容が実現できる。本検討では、光電子融合型パケットルータ上に収容可能なVNFとして、ロードバランサを考え、その実現方法について議論した。さらに、シミュレーション評価により、VNFのうち、一部の機能を光電子融合型パケットルータに収容することにより、光・電気の変換回数を削減できることを示した。

[関連発表論文]

4.3. データセンターネットワークのVLSI化に関する研究

4.3.1. データセンターチップ内ネットワーク構成に関する研究

データセンター内の処理を低消費電力で実行するために、多数のコアを収容したチップを構成するデータセンターチップというアプローチが提唱されている。このアプローチでは、多数のコアを収容したチップ上で、データセンターで行われている並列処理を実行することにより、電力効率よく、必要な処理を行うことが期待できる。データセンターチップにおいては、コア間が通信を行い、連携することで、多量のデータの処理を行う。そのため、データセンターチップにおいても、ネットワークは重要な役割を担う。

本研究では、チップ内の通信を収容するのにかかる消費電力と、チップ内の通信の遅延を考慮した上で、データセンターチップのネットワーク構成の検討を行った。本検討においては、パケット交換ネットワークとパス通信ネットワークを積層した3次元チップを構成する。そして、パケット交換ネットワーク上に各スイッチとパス通信ネットワークを接続する。本構成では、パス通信ネットワークの設定により、パケット交換ネットワーク上に2点間を接続するパスを構築可能である。そこで、低消費電力で目標とする遅延以内に始点・終点間の通信を収容することができるようなパスの設定、パケット交換ネットワークの経路の設定を各時刻のトラヒック状況において行う。シミュレーション評価により、提案するネットワーク構成が、パス通信ネットワークをチップ内に配置しない場合や、パス通信ネットワークが通信の始点・終点となるコアとのみ接続している構成と比べ、低消費電力かつ低遅延なトラヒック収容が可能であることを示した。

[関連発表論文]