9. 脳や生体の環境適応性・進化適応性に着想を得た情報ネットワークアーキテクチャに関する研究

9.1. 自己組織化制御技術の確立に関する研究

9.1.1. 自己組織型ネットワーク制御の収束性・適応性・安定性向上(2.1.1節再掲)

ネットワークの大規模化、複雑化に伴い顕在化した問題を解決するため、生物の仕組みに着想を得た自己組織化の原理が注目を集めている。しかし、自己組織化の原理を応用した自己組織型システムは、システム全体の最適性が保証されない、機能創発に長い時間を要するという問題を有しており、ひいては環境変動への適応速度の遅さにつながっている。自己組織型システム本来の局所性を維持しつつ、変化し続けるネットワーク環境へと適応していくために、我々は管理型自己組織化制御に着目している。管理型自己組織化制御は、システムの外部に管理ノードを導入し、システム外部から観測および制御入力を与えることにより所望の状態へとシステムを誘導する制御技術である。本研究では、集中型の管理により実現する最適フィードバックメカニズムを、自己組織的な経路制御手法であるポテンシャルルーティングに組み込むことで、図に示すように、自己組織型制御の収束性を向上する手法を提案した。さらに、管理ノードによる情報収集コスト、計算コストを抑制するために、管理ノードの分散化も実現した。

[関連発表論文]

9.1.2. 自由エネルギーに基づくネットワーク設計(2.1.2節再掲)

自己組織型ネットワーク制御の頑健性は秩序化を促す秩序化エネルギーと乱雑化を促す乱雑化エネルギーによる影響を受けて決まる。自己組織型ネットワーク制御を設計する際には、想定するネットワーク変動の度合いに応じてどの程度の性能を発揮する必要があるか、という観点から両エネルギーのバランスを適切に設計する必要がある。我々は、熱力学における自由エネルギーの概念に着目し、ネットワークにおける自由エネルギーを定義した。自然界においては物質の両エネルギーのバランスが温度によって定まる。自由エネルギーの定義から導出されるネットワークの温度を用いることで、ネットワークシステムの頑健性を設計する方針について提案を行った。

また、具体的なネットワークシステムを用いた経路制御を対象として、自由エネルギーを用いた設計方針の検討を行った。

[関連発表論文]

9.1.3. モバイルコアネットワークにおける適応的な自律分散型移動管理手法(日本電気との共同研究)(2.2.1節再掲)

マシンツーマシン (M2M) 技術の発展と普及にともない、携帯電話よりも遥かに多いM2M端末がモバイルコアネットワークに接続されるようになると考えられる。M2M端末間の通信量や通信頻度は携帯電話より小さい一方で携帯電話と同様の管理コストが生じるため、大量のM2M端末を収容するためには多大なコスト増が発生する。そこで、現状の3GPP EPSアーキテクチャにおいて、より多くのM2M端末を収容すると同時に管理コストを削減するために、ユーザ端末の移動に関する管理機能(MME)をモバイルコアネットワーク内のサーバに分散する分散移動管理アーキテクチャが検討されている。

本研究では、バイルコアネットワーク内のサーバ(PGW、SGW、eNB)で仮想的な移動管理機能(ADMME)が動作しているアーキテクチャを対象に、M2M端末を含む様々なユーザ端末の特性(移動特性、位置、通信頻度など)やサーバの負荷状態の動的な変化に対して、適応的に適切なサーバを選択することのできる自律分散型のADMME選択手法を提案する。具体的には、提案手法では、ユーザ端末(UE)との遅延情報とサーバの負荷情報にもとづいてアクティビティと呼ばれる最適化指標を定義し、生物システムの環境適応メカニズムの数理モデルであるアトラクター選択モデルを応用することによって、ユーザ端末からのリクエストを受信したADMMEが、アクティビティが最大になるようなADMMEを自律的に選択し、ユーザ端末の管理を移譲する。

現実のモバイルコアネットワークにおけるサーバ構成やユーザ端末数ならびにその移動モデルの想定にもとづいてシミュレーション評価を行った結果、提案手法によって端末の移動特性に応じた適切なADMMEが選択されることによって、小さい応答時間とともにサーバ間負荷分散を達成できることが示された。

[関連発表論文]

9.1.4. 生化学反応式を用いた空間協調モデルに基づくサービス空間構築手法に関する研究(5.1節再掲)

Network Function Virtualization (NFV) やマッシュアップWebサービスなどのネットワークシステムにおいては、実行環境の構成要素である汎用サーバ上に複数のサービスや機能を配置し、実行する。その分散配置されたサーバに、どのサービスや機能を配置するか、及び配置された各サービスや機能にどう資源を割り当て実行するかを各サーバで自律的に決定することは、物理的に広い範囲のネットワーク環境や、サーバ障害や環境変動の発生時においても、システムの冗長性や成長性を保ちながらシステム全体を制御できる。また、遺伝子ネットワークや化学反応等の生化学における特性である自己組織性や堅牢性を情報ネットワークアーキテクチャへ応用する検討が活発に行われている。

そこで本研究では、化学反応式を利用した空間拡散モデルに基づいて、上記のようなネットワークサービスにおいて、提供するサービスや機能を適切な場所で実行し、サーバ資源をそれらで効率よく共有する手法を提案する。提案手法では、サービスや機能を実行するサーバを個々のタプル空間とみなし、ユーザからのリクエスト量やサービスの需要量等を化学物質として考え、サーバ内の局所的な状況を化学物質の濃度変化や拡散によって表現する。そして、その空間で、各サービスに対するリクエストを、サーバ資源を用いて処理する反応式を定義し、それを実行することにより、サービスの需要に応じたサーバ資源の共有をシステム内の各デバイスの自律的な動作によって実現する。シミュレーション評価により、提案システムが仮想化ネットワークシステムに求められる様々な機能を実現できることを確認した。

また、提案システムをNetwork Function Virtualization (NFV)を実現するために適用することを考え、NFVにおけるサービチェイニング、Virtualized Network Function (VNF)のサーバへの配置、フロー経路の決定などを行うための化学反応式を構築し、その有効性を確認した。また、単純なVNF配置方式と比較し、フローの処理にかかる遅延時間を77%削減できることを確認した。

[関連発表論文]

9.1.5. 生物のゆらぎ原理にもとづくSDI仮想化基盤制御手法に関する研究(富士通研究所との共同研究)(5.2節再掲)

SDI (Software Defined Infrastructure) 環境では、物理的リソースであるコンピューティングリソースとネットワークリソースをスライス化して仮想ネットワークを構築し、その仮想ネットワークをユーザに提供する。SDI環境を実現する技術として、近年 SDN (Software-Defined Networks) と NFV (Network Function Virtualization) 技術が着目されている。市場導入に向けては、技術標準化が必須であり、現在も進められているところである。しかし、SDI環境の実現に向けたもう1つの課題は、ユーザの需要に応じて仮想ネットワークと物理的なリソースの割り当てを制御することである。本研究では、制御目標の汎用性を備え、かつ、多重スライス構成に対応可能なVNE手法として、ゆらぎ原理にもとづくVNE手法を提案している。光ネットワーク上の仮想ネットワーク制御とは異なり、SDI 環境における仮想ネットワーク制御では、回線容量やルータの処理能力制約に加え、物理サーバおよび物理サーバ上に構築される仮想マシンのリソース要件を制約に加える必要がある。そこで本研究では、ゆらぎ原理にもとづくVNT制御手法を拡張し、SDI環境における仮想ネットワーク制御手法であるVNE手法を提案している。計算機シミュレーションによる評価により、提案手法におけるVNEの移行回数が、既存の発見的手法と比較して、約45%削減されることが明らかとなった。

[関連発表論文]

9.1.6. リアルタイムフロー分類のための階層的クラスタリング手法に関する研究(6.3節再掲)

ネットワークを介したサービスが多岐にわたるようになり、ネットワークに対する要求の異なる多種多様なアプリケーションのトラヒックがネットワーク上を流れるようになっている。そのため、適切なトラヒックの収容・制御を行うためには、フローを対応するアプリケーションにあわせて分類することが必要となる。従来、トラヒック分類はポート番号を用いて行われてきた。しかし、近年は多くのアプリケーションがHTTPまたはHTTPSを介して提供されているため、ポート番号を用いたトラヒック分類は困難となってきた。そこで、ポート番号によらない新たな分類手法として、フローを観測して得られた統計量を特徴量として用い、クラスタリングを行う手法が考えられてきた。この手法では、まず、あらかじめ観測されたトラヒックデータを用い、オフラインでクラスターを構成する。そして、新たに観測されたフローを類似するクラスターに振り分けることにより分類を行う。

しかし、これらの手法は2つの問題点を抱えている。一つ目の問題は新たなアプリケーションの出現を考慮していないことである。新たなアプリケーションに対処する方法として定期的にクラスタリングを実行し新たなアプリケーションの特徴を学習させることが考えられる。しかしながら、この方法では、新たな種類のトラヒックが倒閣しても、次のクラスタリングの実行時まで、当該トラヒックの分類を行うことができない。二つ目の問題はこれらの手法が分類前に正確なフローの特徴量を得ているという前提を置いていることである。しかし、正確な特徴量はフローが完了する前には得られない。完了前のフローを分類する方法としてあらかじめ定義された個数のパケットを観測次第、分類を実行することが考えられる。この方法では、特徴量把握に用いるパケット数を少なく設定すると、フローの到着後すぐに分類することができる。しかし、少ない数のパケットを観測することにより得た特徴量は不正確である可能性があり、誤った分類をされかねない。これらの問題に対し、本研究では、新たなリアルタイムフロー分類のための階層的クラスタリング手法を提案する。本手法では、特徴量はパケットの到着ごとに更新され、特徴量が十分正確になった時点でフローの所属クラスターを各階層で決定することにより、階層的なクラスターを構築する。特徴量が十分正確でなくクラスターを決定できない場合は、新たなパケットにより特徴量の正確さが向上するのを待つ。これにより、特徴量の精度を考慮した上で、各フローの所属するクラスターを選択することが可能となる。

また、本手法では、階層的なクラスターを構築するが、階層的クラスターは未知のアプリケーションに関連するフローの性質を推定するのに有用である。階層的クラスターにおいて、フローは上層では少数のグループに分けられ、上層で同じグループに所属していたフローが下層においてはより細かいグループに分けられる。新たなアプリケーションのフローが下層で新たなグループを形成したとき、上層では既存のグループに含まれた場合は、既存のグループの性質から新たなアプリケーションの性質を推定することができる。

本研究では、研究室内で観測されたトラヒックデータを用いてクラスタリング手法の評価を行った。その結果、フロー完了後の正確な特徴量を用いてクラスタリングした場合と比較し、88%の精度でフローを3つのクラスターへ分類、74%の精度で5つのクラスターへの分類が可能であることを示した。また、本評価では、提案手法が81%のフローが30パケット到着前に3クラスターに分類可能であり、99%のフローが40パケット到着前に5クラスターに分類可能であり、少数のパケットの観測で、適切なクラスターに分類可能であることを示した。

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9.1.7. フォトニックインターネットにおける論理トポロジー制御手法に関する研究(NTTネットワークサービスシステム研究所との共同研究)(8.1.1節再掲)

P2Pネットワーク、VoIP、動画配信サービスなどの新たなサービスが登場し、ネットワーク上でのトラヒックの変化は大きくなっている。これまで、トラヒック量を既知として効率良く収容するための論理トポロジー制御手法に関する研究が数多くなされているが、トラヒックの変化に対して適応的に論理トポロジーを制御することが重要である。本研究では、ネットワーク性能の最適化のみではなく、環境の変化に対する適応性を備えたネットワーク制御手法として、局所的な情報交換によって予測困難な環境変化に適応する振る舞いにもとづいた論理トポロジー制御の確立に取り組んでいる。これまでに、生物が予測困難な環境変化に適応する振る舞いをモデル化したアトラクター選択に注目し、トラヒック変動に対する適応性を備えた論理トポロジー制御手法を提案し、シミュレーション評価および実機評価によりトラヒックの変動に対して早く反応し、その変化に適応することを示している。しかし、上記の研究においては、ランダムに構成された論理トポロジーを候補としてアトラクターとしていた。そこで、アトラクター選択にもとづく論理トポロジー制御において、どのようなアトラクターを構築するべきかの検討を行い、その指針を提案した。提案手法の基本的なアプローチは、論理トポロジー候補をその特性によって群へと分類し、それぞれの論理トポロジー候補群から一つずつ論理トポロジー候補を選出することで、多様なトラヒック変動に適応可能なアトラクターを選定する。しかし、このアプローチは大規模なネットワークを対象とした場合に計算時間が爆発的に増大するという課題がある。そこで、本アプローチを大規模なネットワークに適用するため、ネットワークのトポロジーを階層的に縮約する手法も合わせて提案している。評価の結果、ランダムに光パスを設定することで仮想網候補を構築した場合と比較して、提案手法は最大リンク利用率をより低く抑えられる良好な仮想網候補が設計でき、結果として仮想網制御により解を発見するまでの制御時間が減少することがわかった。

次に、アトラクター選択にもとづくVNT制御において解発見までの時間の更なる削減を目的とし、アトラクター集合の更新手法を提案している。提案手法では、トラヒック需要の情報を用いてオフライン計算による評価によって、今現在の環境に対して不適切なアトラクターを一時的に除外し、環境に適したアトラクターをアトラクター集合に動的に組み入れる。計算機シミュレーションの評価の結果、既存の手法により選定されたアトラクターのみを用いる場合と比較して、提案手法では制御成功率が最大約40%改善され、制御に要する時間が最大約70%削減されることがわかった。

図: アトラクター設計手法の概要
図: アトラクター更新手法の概要
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9.1.8. 生命システムに学ぶ論理トポロジー制御手法に関する研究(脳情報通信融合研究センター(CiNet)との共同研究)(8.1.2節再掲)

環境の変化に対する適応性を備えたネットワーク制御手法として、アトラクター選択を用いた論理トポロジー制御手法を提案している。本研究では、アトラクター選択を用いた論理トポロジー制御手法の性能向上を目的として、アトラクターの学習規則や制御変数の多値化に取り組んでいる。下記の論文では、アトラクターの学習規則としてojaを適用することによって、Hebbを用いる場合と比較して、計算時間が21%削減されることを示した。また、制御変数の多値化によって、良好な論理トポロジーを発見するまでの時間が60%削減されることを示した。

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9.1.9. エラスティック光ネットワークに関する研究(8.1.3節再掲)

生物システムは、環境変動に対して安定して機能する頑強性と環境が大きく変動した際に自身の状態を大きく変える可塑性を備えていることが知られている。本研究では、頑強性や可塑性を備えた生物システムの進化適応を参考に、適応性や拡張性の高い情報ネットワークの構築手法を検討している。下記論文では、フォトニックインターネットを対象として、トラヒック需要増大に伴う物理設備量の増強を環境変動の1つとして捉え、様々な環境変動に対する進化適応性を備えた物理ネットワークを構築するためのネットワーク設備増強手法を提案している。提案手法では、頑強性と可塑性を備えた生物の進化を説明する数理モデルを導入し、ポート数増強の指針を得る。可塑性を備えた物理トポロジーを構築することで、設定できるVNT の多様性が増し、アトラクター選択にもとづくVNT 制御による将来の環境変動に対する適応性が更に向上すると期待される。提案するポート追加位置決定手法では、ポート追加の候補となる1つのノードに暫定的にポートを追加して得られる物理ネットワーク上で、生物の進化モデルを応用したダイナミクスに従いVNT 制御を行い、システムの適応性を試算する。これをポート追加の候補となるノードそれぞれに対して行うことで、もっとも進化適応性が高まるポート追加位置1 箇所を決定する。その過程を繰り返すADD アルゴリズムによって、ポートを追加する。計算機シミュレーションによる評価では、ヒューリスティックなVNT 設計手法であるI-MLTDA を用いて現在のトラヒック需要に最適な位置にポート追加を行う手法と比較した。12 ノード規模のネットワークを対象に計算機シミュレーションを行った結果、提案手法は比較手法と比べて適応可能な通信量が約8%増加することが明らかとなった。

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9.2. 脳ネットワークの構造分析と情報ネットワーク設計・制御手法への応用に関する研究

9.2.1. 脳機能ネットワークのフラクタル特性分析と情報ネットワークへの応用

インターネットは世界最大規模の人工ネットワークであり、大規模複雑化するインターネットをより高品質なものにすることが望まれている。高品質化への手がかりは、多彩な機能を高度なレベルで発揮しているヒトの脳機能ネットワークに見出すことができる。ヒトの脳は非常に複雑でありながら少ない消費エネルギーで管理・制御されており、脳が機能を発揮するときの処理は他の生物と比較して高度に最適化されていることが明らかにされてきた。脳機能ネットワークの特性に関する研究として、トポロジー構造をグラフ理論にもとづいて解析することが広く行われており、インターネットには見られない脳機能ネットワークに固有の構造としてボクセルレベルのトポロジーにおいてフラクタル性を有していることが明らかにされている。したがって、脳機能ネットワークのフラクタル性を取り入れることでインターネットの高品質化が期待できる。ただし、そのためには脳機能ネットワークの接続構造とその構造によってもたらされる利点を解明しなければならない。下記論文では、脳機能ネットワークの構造的特徴としてフラクタル性に着目し、フラクタル性の要因となる接続構造およびその構造によってもたらされる利点を明らかにする。分析の結果、脳機能ネットワークは機能モジュールの接続性に関するフラクタル性を有しており、比較対象トポロジーと比べて5 倍以上多くの良質な経路を確保していることがわかった。次に、効率性、頑健性、そして将来の規模増大に対応可能な仮想ネットワーク構成手法の一つとして、フラクタル性を有する仮想ネットワーク構成手法を提案している。提案手法では、フラクタル性をもたらすために、本手法では仮想ネットワークをモジュールとして階層的に結合し、かつモジュール間リンクをハブでは無いノード間に構築する。評価の結果、本手法で構成されたフラクタル性を有するネットワークは、フラクタル性が無いネットワークと比較して、トポロジーの10%のノードが故障した際の到達可能率を17%高く維持することができ、また最も負荷が集中するノードの負荷が約45%削減できることを明らかにした。

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9.2.2. 脳ネットワークの構造に着想を得たロバスト性を有するネットワーク構築(2.1.3節再掲)

将来における無線センサーネットワークは、単に情報を収集するだけではなく、IoT (Internet of Things) に統合された情報基盤としてその重要性を増していくと考えられている。多様な通信要求に適切に応じるために、ネットワークの構造自体をどのように設計するべきかという観点から遅延時間や通信帯域、耐故障性といったネットワーク性能を向上することも重要な課題となる。そこで我々は、人間の脳ネットワークの構造に着目した。脳ネットワークは高い通信効率とロバスト性を有することが期待され、その特徴を有するネットワークトポロジーを構築する手法を提案する事により、これらの課題の解決を目指す。このようなトポロジー構築方法の応用先として、センサーネットワークにおいて有効となるトポロジー特性評価および仮想ネットワーク構築に取り組んだ。注目すべき点として、脳ネットワークが有する階層的なモジュール構造とスモールワールド性、特徴的な次数相関があり、これらの構造的特徴を導入したトポロジー構築方法の有効性をシミュレーション評価およびパーコレーション解析により示した。

[関連発表論文]

9.3. 生物の進化適応性に基づく情報ネットワークアーキテクチャに関する研究

9.3.1. インターネットトポロジー成長のモデル化手法

通信需要の増加に伴い、インターネットの規模は拡大し続けている。インターネットでは、AS間の相互接続リンクを通してトラヒックが交換される。しかし、現在のインターネットでは、AS同士の局所的な決定によって相互接続リンクが構築され、インターネットトポロジー全体の構造を考慮したトポロジー成長は行われていない。本研究では、今後の通信需要増加に伴ってインターネットでどのような問題が生じるのかを分析し、また、その問題を回避する方法を検討している。下記の論文では、ASレベルトポロジーを、リンクで密に繋がれたAS の集合への分割を繰り返すことで導かれるフロー階層と呼ばれる階層構造を抽出し、その構造の変化を分析している。フロー階層を用いたインターネットトポロジーの経年変化の分析により、現在のリンク構築ポリシーは、一部のリンクにおいてトラヒックをより集中させる傾向にあることがわかった。そこで、このトラヒック集中を抑制するためのインターネットトポロジーの成長方針を示し、この方針に基づくトポロジー成長と過去13年間のインターネットの実際のトポロジー成長と比較した。その結果、トラヒックの集中が半分以下に抑えられることが明らかとなった。しかしながら、トラヒック集中の短絡的な抑制はASの収益を損なう可能性がある。そこで、ASの収益モデルを導入して実際のトポロジー成長を分析した結果、ネットワーク収益の増大に対して、トラヒックの増大の方が大きく、各ASがトラヒックの増大に対して十分なネットワーク収益を獲得できていないことを明らかとなった。そこで本研究では、各ASのリンク構築相手選択ポリシーを提示し、シミュレーション評価によってすべてのASがトラヒックの増大に対してネットワーク収益を持続的に獲得することが可能となることを示している。

[関連発表論文]

9.3.2. 生物の多様性にもとづく持続成長可能な情報ネットワークの設計手法(KDDI研究所との共同研究)

インターネットの社会インフラ化が進み利用形態が多様化するにつれ、トラヒック需要の変化やネットワーク機器故障に対する適応性や拡張性の高いネットワーク設計が重要になりつつある。しかし、需要の変化や機器故障の事象は予測困難であるため、事前に発生頻度や発生規模を想定して設備設計を行うネットワーク設計手法が広く検討されてきた。ところが、そのようにして設計・構築されるネットワークは、設計時の環境下ではよい性能が得られるものの、環境が大きく変化すると急激に性能が劣化し、大幅な設備増設もしくはネットワークの再設計が必要となる。本研究では、トポロジーの構造に多様性を持たせることで環境変化に対する適応性や拡張性を高め、将来にわたって少ない設備量で環境変化に対応可能なネットワーク設計手法の検討を進めている。

下記の論文では、トポロジーが有する構造の多様性を測る指標として残存次数の相互情報量に着目し、その有用性を評価する。評価の結果、ルーターレベルトポロジーの残存次数の相互情報量は約1.0となり、トポロジー構造の多様性が低いことがわかった。また、相互情報量が小さいとトポロジー構造が多様となり、相互情報量が大きいとトポロジー構造に規則性が生じることを示した。また、トポロジー構造の多様性を高めるネットワーク設計手法を提案し、FKPモデルに基づいて規模拡張したネットワークと比較評価した。その結果、提案手法に基づいて規模拡張したネットワークは、FKPモデルに基づいて規模拡張したネットワークと比較して、単一ノード故障に対応するために求められる回線設備量を半減できることが明らかとなった。

[関連発表論文]

9.3.3. ネットワークの進化適応性を確立するためのLinuxの構造分析に関する研究

インターネットの社会インフラ化が進み利用形態が多様化するにつれ、トラヒック需要の変化やネットワーク機器故障に対する適応性や拡張性の高いネットワーク設計が重要になりつつある。しかし、需要の変化や機器故障の事象は予測困難であるため、事前に発生頻度や発生規模を想定して設備設計を行うネットワーク設計手法が広く検討されてきた。ところが、そのようにして設計・構築されるネットワークは、設計時の環境下ではよい性能が得られるものの、環境が大きく変化すると急激に性能が劣化し、大幅な設備増設もしくはネットワークの再設計が必要となる。本研究では、トポロジーの構造に多様性を持たせることで環境変化に対する適応性や拡張性を高め、将来にわたって少ない設備量で環境変化に対応可能なネットワーク設計手法の検討を進めている。

下記の論文では、トポロジーが有する構造の多様性を測る指標として残存次数の相互情報量に着目し、その有用性を評価する。評価の結果、ルーターレベルトポロジーの残存次数の相互情報量は約1.0となり、トポロジー構造の多様性が低いことがわかった。また、相互情報量が小さいとトポロジー構造が多様となり、相互情報量が大きいとトポロジー構造に規則性が生じることを示した。また、トポロジー構造の多様性を高めるネットワーク設計手法を提案し、FKPモデルに基づいて規模拡張したネットワークと比較評価した。その結果、提案手法に基づいて規模拡張したネットワークは、FKPモデルに基づいて規模拡張したネットワークと比較して、単一ノード故障に対応するために求められる回線設備量を半減できることが明らかとなった。

[関連発表論文]

9.3.4. ネットワークの進化適応性を確立するためASトポロジーの構造分析に関する研究

進化適応性を有する情報ネットワークの構築に向け、生物システムなどの自己組織的に動作するシステムにおいて外的要因の急激な変化に対して安定的に機能提供可能であることを説明するBow-Tie構造、Core-Periphery構造に着目した研究を進めている。Bow-Tie構造、Core-Periphery構造では、システム全体を、安定的かつ効率的に動作するCoreと外的要因の変化に応じて動作形態を変えるPeripheryの二つの要素で捉える。本研究では、まず、自律分散的に構築されると言われるインターネットのASレベルトポロジーを対象とし、Core-Peripheryの観点からインターネットの情報流通の形態の理解を試みている。具体的には、既存のグラフ分解手法を用いてインターネットのコアを抽出し、その経年変化の様相を明らかにした。その結果、ASレベルトポロジーは、密に接続し合う部分グラフを一つ有しており、その部分グラフに属するASは、Tier-1、Tier-2が多数である一方、HyperGiantなどのASも多く含まれていることがわかった。また、CoreとPeripheryに属するリンク数にもとづいて、ASレベルトポロジーにおける情報流通の中核となるコア構造を抽出し、その変遷を分析した。その結果、2006年時点は全体の8%程度である2000個のASがコアを形成していたが、HyperGiantの登場以降はコアを形成するAS数が年々増加することがわかった。

[関連発表論文]

9.3.5. 生物の進化適応性にもとづく仮想ネットワークの構築手法(5.3節再掲)

通信ネットワークへの接続者数の増加に伴い、通信サービスが多様かつ動的なものとなっている。この状況に対処する方策として、ネットワーク機能の構成を動的に変更可能にする仮想化技術である Network Function Virtualization(NFV)技術が広く注目を集めている。ユーザの動的な処理要求変更に対応するためには、VNFをどのように配置するのかを、時々刻々と変化するネットワークに適応できるように、動的に解く必要がある。このような動的VNF配置問題においては、配置状態を各要求に対して適したものとすることに加え、処理要求変化後のVM再構成操作などの、動的配置に必要なコストを抑制する必要がある。本研究では生物進化の知見を利用することでこの問題を解決した。生物は、環境変動の中で進化する中で、各目標へ遺伝的に適応し、最終的に少しの構造変更で目標変動に適応できる構造を獲得する。環境変動に対する生物の進化適応の概念を導入した遺伝的アルゴリズムである、EVGやMVGを動的VNF配置問題に適用することにより、ユーザのトラフィック経路上で生じる遅延を小さく維持しながら、ユーザ処理要求の変更後に必要な配置再構成操作回数を抑制した。

[関連発表論文]

9.3.6. 生物の進化適応性にもとづくVNT制御に関する研究(8.1.3節再掲)

生物システムは、環境変動に対して安定して機能する頑強性と環境が大きく変動した際に自身の状態を大きく変える可塑性を備えていることが知られている。本研究では、頑強性や可塑性を備えた生物システムの進化適応を参考に、適応性や拡張性の高い情報ネットワークの構築手法を検討している。下記論文では、フォトニックインターネットを対象として、トラヒック需要増大に伴う物理設備量の増強を環境変動の1つとして捉え、様々な環境変動に対する進化適応性を備えた物理ネットワークを構築するためのネットワーク設備増強手法を提案している。提案手法では、頑強性と可塑性を備えた生物の進化を説明する数理モデルを導入し、ポート数増強の指針を得る。可塑性を備えた物理トポロジーを構築することで、設定できるVNT の多様性が増し、アトラクター選択にもとづくVNT 制御による将来の環境変動に対する適応性が更に向上すると期待される。提案するポート追加位置決定手法では、ポート追加の候補となる1つのノードに暫定的にポートを追加して得られる物理ネットワーク上で、生物の進化モデルを応用したダイナミクスに従いVNT 制御を行い、システムの適応性を試算する。これをポート追加の候補となるノードそれぞれに対して行うことで、もっとも進化適応性が高まるポート追加位置1 箇所を決定する。その過程を繰り返すADD アルゴリズムによって、ポートを追加する。計算機シミュレーションによる評価では、ヒューリスティックなVNT 設計手法であるI-MLTDA を用いて現在のトラヒック需要に最適な位置にポート追加を行う手法と比較した。12 ノード規模のネットワークを対象に計算機シミュレーションを行った結果、提案手法は比較手法と比べて適応可能な通信量が約8%増加することが明らかとなった。

[関連発表論文]