6. 次世代サービスネットワークアーキテクチャに関する研究

6.1. ネットワークサービスのエコシステム実現に関する研究

6.1.1. API エコノミーによる持続発展可能なネットワークサービスに関する研究

 ネットワークの高速化やクラウド技術の進展を背景に、ネットワークを利用する様々なアプリケーションやサービスが登場しており、最近では、企業等が抱える情報処理をAPI化やデータ提供そのものをAPI化し、APIを用いてサービスを連結し新たな価値を生み出すAPI エコノミーが注目されている。API エコノミーでは、サービス提供者とコンシューマーがプラットフォームに接続し、API を介してサービスの供給と消費が行われる。サービスを「財」と見做せば、API エコノミーは市場経済(Market Economy)となる。多くの研究では、APIエコノミーの挙動を理解するために、ある一定のパラメータ条件における均衡状態を捉える研究がなされている。しかし、現実の市場では、プラットフォームによる機能への投資や市場参加者への報酬の調整といったプラットフォーム戦略は時間とともに変化する。したがって、ある一定の条件における均衡状態を捉えるのではなく、時間とともに市場参加者数が変化する市場の振る舞いを捉えることは、現実のプラットフォームがとるべき戦略を明らかにするうえで重要である。

 本研究では、時間とともに参加者数が変化する市場の振る舞いを捉えることを目的とし、時間発展型の市場モデルを示している。具体的には、サービス提供者とコンシューマーに加え、サービス提供者にAPI を提供するAPI 提供者が参加しているプラットフォームの時間発展型の市場モデルを示している。さらに、マルチプラットフォームの市場の振る舞いを明らかにするために、プラットフォーム間のスイッチング規則を加えた市場モデルを構築した。

 モデルを用いた分析の結果、API 提供者を含むAzure型プラットフォームは、API提供者が不在のAWS型プラットフォームと比較して市場参加者数が67%増加し、サービス構築コストが25%低下することがわかった。また、市場の拡大期には、有料コンシューマーからの収益の70%をサービス提供者およびAPI 提供者に配分することによって、三者の利益が等しくなる共生が実現可能であることもわかった。マルチプラットフォーム環境下においては、APIによるサービス開発コスト削減効果が高い場合は、プラットフォームが共存することが明らかとなった。

API提供者が不在のAWS型プラットフォームモデル
API提供者が参画するAzure型プラットフォームモデル
[関連発表論文]

6.2. サイバーセキュリティの高度化に関する研究

6.2.1. 多数のセンサからの情報を入力として用いる機械学習モデルに対する攻撃とその対策に関する研究

 近年、深層学習に基づく機械学習モデルが広く使われるようになっており、多数のセンサデバイスからの情報を統合して、何等かの判断を機械学習で行うなど、高度な社会の実現が期待されている。一方で、機械学習モデルが、攻撃に対して脆弱であることを示す研究も進められており、攻撃者は機械学習モデルに基づくシステムの性能を低下させる可能性があることが示唆されている。特に、多数のセンサからのデータを統合するような機械学習モデルにおいては、そのうち、一部のセンサに脆弱性が残っているリスクが高くなり、一部のセンサデバイスの侵入を起点として、機械学習モデルが攻撃される可能性がある。

 そこで、本研究では、このような、一部のセンサデバイスへの侵入が起点となった攻撃が実際に可能であるのかについて検証をし、その危険性を明らかにするとともに、そのような攻撃への対策について、検討を進めている。

[関連発表論文]