高速パケットスイッチングアーキテクチャに関する研究

ネットワークにおけるボトルネックはルータにも存在する。特にネットワーク回線の高速化に伴い、ルータにおける処理ボトルネックが緊急を要する解決課題のひとつになっている。一方で、ネットワークサービスの多様化に伴って、単純なパケットフォワーディングの高速化にとどまらず、多種多様なサービスを考慮したパケット処理がルータに要求されるようになっている。本研究テーマでは、サービスの多様化に追随しうる高速パケットスイッチングアーキテクチャに関する研究に取り組んでいる。

高速ルータにおけるIPトラヒック分析と適用例に関する研究

インターネットの急速な普及と、マルチメディアアプリケーションの増加により、より高速なパケット転送技術が要求されている。しかし、全てのユーザが満足し得るネットワーク品質を提供するためには、帯域の増強だけでなく与えられた帯域を有効に活用するためのメカニズムが必要となる。最近では、特にルータなど、回線容量以外の要素がネットワーク性能を大きく左右する。本研究では、トラヒック特性を考慮した高速ルータに関する検討を行った。まず、トラヒックモニタを用いたトレースデータの収集及びフロー特性の統計分析手法を示し、その結果としてパケット数分布やフロー継続時間分布などはすその部分の大きな分布モデルが適合することが明らかにした。また、到着間隔は指数分布で近似できることが分かった。さらに、分析結果をMPLSスイッチに適用し、その効果を検証した。その結果トラヒック特性を考慮したMPLSのパラメータ設定によって、ハードウェア資源の有効利用が行なわれ、パケット処理遅延が軽減されることが分かった。また、アプリケーションによる集約を行ったフローについても同様に適用できることを明らかにし、集約による効果を示した。

[関連発表論文]

IPルーティングテーブル検索の高速化のための効率的なキャッシュ構成手法に関する研究

インターネット上ではさまざまなアプリケーションが登場し、通信回線を共有している。多様なアプリケーショントラヒックが混在するネットワークにおいて、ユーザの要求に応じた品質を提供するためには、単にパケットを転送するだけでなく、公平性やトラヒック特性を考慮した制御が不可欠である。このような背景から、IPルータおいてもポリシーサービスに対する要求が高まっている。本研究では、高速IPルータにおいてポリシーサービスの提供に必要不可欠な、フロー識別を実現するために、一般的に入手可能なCPUおよびメモリを用いた検索アルゴリズムを提案した。また、アルゴリズムを実現するサイクル数やメモリアクセス時間等を考慮したパケット処理能力の導出を行い、メモリ利用効率の改善について検討した。さらに、シミュレーションによってキャッシュメモリのパラメータによる効果を明らかにした。

[関連発表論文]

IPルータにおけるアドレス検索アルゴリズムの高速化手法に関する研究

インターネットトラヒックの急速な伸びにより、より高速なデータ転送技術が要求されている。ネットワーク全体の性能向上を考えた場合、回線容量を増やすだけでなく、ルータ、特にアドレス検索処理の高速化が必須である。近年、従来の検索手法に替わる新しい高速検索アルゴリズムが提案されているが、その性能評価においては、平均的な負荷を元にしたシミュレーションを用いて行われているのが現状であり、実トラヒックを考慮したものではない。その結果、実用化された場合に期待される性能が達成できない場合も十分に考えられる。そこで、本研究では、より現実的なルータ性能の導出を行うために、実トラヒックを元にした評価手法を提案した。提案した評価方法を用いることによって、最悪時スループットのより正確な評価を行うことが可能となった。

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高速バックボーンネットワークにおけるフロー間の公平性を実現するパケットスケジューリングアルゴリズムに関する研究

現在インターネットワークトラヒックの大部分を占めるBest effort系トラヒックの品質に関して最も重要な目標の一つが各ユーザへの公平なサービスの実現である。今後、インターネットがますます重要なインフラと化してゆき、また各ユーザのアクセス帯域が大きくなるに従って、ユーザ間の公平なサービスはますます重要になってくると考えられる。公平なサービスを実現する手段としては、ネットワーク内の全てのルータにおいて各ユーザフロー毎にスケジューリングする方式が提案されている。しかしながら、非常に多くのフローを超高速に扱うことはハードウエア技術上非常に困難であり、この方式はバックボーンネットワークにはスケールしないと考えられる。そこで本研究では、フロー毎に優れた公平性を提供し、エッジルータやコアルータの能力に合わせた、スケーラブルなスケジューリング方式を提案する。エッジのルータではper-flowにほぼ近い制御を行い、コアのルータでは複数のフローを集約して制御を行うことでスケーラブルを実現する。また、複数のフローを集約することで失われた情報を、集約された単位ごとのフロー数を推定したり、レートの高いフローを発見して、そのフローのパケットに対して優先的に棄却することにより、公平な制御を行うことができるようにする。本研究では、提案方式をシミュレーションによって評価し、集約された単位毎の公平性だけではなく集約された単位の中の個々のフローごとの公平性も実現できることを示している。また、フローの集約度と公平性の関係も明らかにし、高速なコアルータに実装可能な程度にフローを集約した場合でもend-to-endではper-flow制御と同等の公平性を実現できることを示した。

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