4) 次世代ルーティングアーキテクチャに関する研究

4.1 インターネットのトポロジー特性に基づいた経路制御機構に関する研究

現状のインターネットにおいてAS間・ルータ間の接続状況を観測した結果,ASおよびルータの出線数の分布はべき乗則に従うことが示されている. 従来のべき乗則に従うネットワークを対象とした研究では,そのモデル化手法の提案やASレベルを対象としたトポロジー特性,リンク負荷特性の 評価が広くなされてきた.近年には,ルータレベルのインターネットトポロジーに着目し,ルータのバックプレーン処理能力,インターフェース 速度による技術的制約のもとでネットワークのスループットの最大化を目指した結果としてべき乗則を有する構造となること示されている.とこ ろが,インターネットトポロジーがべき乗則に従う理由を示すのみでは実用上不十分であり,トポロジー特性を利用したネットワーク設計,設備 量予測,トラヒック制御に応用していく必要がある.このような考え のもと,本研究テーマでは経路制御機構に着目した研究を進めている.

4.1.1 べき乗則に従うネットワークにおけ る経路制御手法に関する研究

現状のネットワーク設計では,トラヒック量の増大に対しては,バックボーンネットワークの回線容量を再度設 計することにより対応が行われている.しかし,バックボーンネットワークの回線容量を増強したとしても,ネッ トワークのボトルネックはルータのインターフェースにシフトするのみであり,ネットワークに収容可能なトラ ヒック量はルータの技術的制約により制限される.本研究では,アクセス回線の大容量化に耐えうる経路制御手 法を確立することを目的とし,以下の評価に取り組む.まず,ルータレベルのインターネットトポロジーにおい て,アクセス回線の大容量化がバックボーンネットワークのリンク負荷に与える影響を計算機シミュレーション により調査し,問題点を指摘する.次に,フロー偏差法に基づく最適経路制御手法を適用して収容可能なトラヒッ ク量を評価し,アクセス回線容量の増加に対して効率よくトラヒックを収容できるトポロジー形状を明らかにす る.計算機シミュレーションの結果,最適経路制御手法を適用することにより,最小ホップ経路選択手法による 結果と比較して収容可能トラヒック量は約3倍となることが明らかとなった.しかし,フロー偏差法に基づく経路 制御では計算時間が増大し,現実の大規模なネットワークに適用することは難しい.そこで,本研究ではルータ の技術的制約に関する情報を利用した経路制御方式を新たに提案し,べき乗則に従うインターネットトポロジー に適した経路制御手法を提案している.計算機シミュレーションによって評価を行った結果,提案方式では,従 来の最小ホップ経路選択方式に比べて最大リンク利用率は45%減少し,収容可能トラヒックは約1.8倍となること がわかった.その一方で,インターネットにおいて,既存のIP ネットワーク上にアプリケーション独自の論理的 なネットワークを構築するオーバレイネットワークが注目されている.オーバレイネットワークでは,オーバレ イネットワーク上のノード(エンドホスト)が,自身のQoS を満足できるようにオーバレイルーティングを用い て経路を制御する.しかし,エンドホストによる経路制御は自身のQoS,もしくは享受する性能を最大限向上させ るように経路を選択する利己的なものであり,IPネットワークの管理者が制御することはできない.従って,オー バレイルーティングの利己的な振る舞いがネットワーク性能に与える影響や非オーバレイネットワークのトラヒッ クの品質に及ぼす影響を知り,ネットワークの設備設計を適切に行うことが重要である.そこで本研究では,オー バレイルーティングが出線数分布がべき則に従うISP トポロジーに適用された際に,リンクの負荷にどのような 影響を与えるのかを評価する.また,これらの経路制御を考慮した適切な回線容量設計を明らかにする.評価の 結果,ISPトポロジー上でのオーバレイルーティングによる性能向上は,確率的に作成されたトポロジー上でのオー バレイルーティングの性能向上と比較して低くなることを示し,動的なIPルーティングおよび,オーバレイルー ティングが動作する環境において,相互干渉に大きく寄与するノードの構造的特徴を明らかにした.

[関連発表論文]

4.1.2 インターネットトポロジーの計測とモデル化手法に関する研究(大 阪大学大学院工学研究科滝根研究室との共同研究)

インターネットのトポロジー形状を計測した結果,ノードの出線数分布がべき乗則に従うことが近年明らかにさ れており,べき乗則に従うトポロジーのモデル化手法の検討がなされている.しかし,モデル化手法により生成 されるトポロジーを経路制御などのネットワーク制御手法に適用するためには,出線数分布の一致のみならず, トポロジー構造の適切なモデル化が必要である.本研究では,ISP レベルのトポロジーに着目したトポロジモデ ル化手法を提案した.関連発表論文では,まず既存のモデル化手法で生成されるトポロジーとISP のトポロジー の構造上の違いを明らかにしている.その結果に基づいて物理的距離およびクラスタ係数に着目したトポロジー 生成手法を提案し,その生成トポロジーは経路制御手法の評価に適用可能であることを示した.また,日本国内 のISPを対象としてTracerouteによるインターネットトポロジーの計測を行った.計測したトポロジーを出線数 分布,平均ホップ数,クラスタ係数,平均ノードペア数の指標から評価した結果,日本のISPトポロジーもべき 乗則に従うことが明らかとなった.しかし,日本のISPトポロジーでは,出線数が大きいノードは東京に集中し ており,海外のISPトポロジーとは異なりBAモデルで生成したトポロジーに近い構造特性を示すことを明らかに した. また,観測したインターネットトポロジーにおける回線容量分布を,物理回線容量計測ツールを用いて 計測した.その結果,国内ISPトポロジーの回線容量分布はべき則に従うことを明らかにした.

[関連発表論文]